痛んだ臓器は移植に使えない?(depositphotos.com)
何らかの疾患がある高齢のドナーから提供された“準最適(suboptimal)”な腎臓であっても、移植後の機能はこれまで考えられていたよりも優れていることを示した研究結果が「Journal of the American Society of Nephrology」7月6日オンライン版に掲載された。
同研究では、準最適な腎臓の移植によって透析を継続した場合よりも余命を延長できる可能性が示唆されたという。
つまり、病気や加齢で痛んだ臓器でも移植に活用できるという話だ。
この研究は、米コロンビア大学メールマン公衆衛生学部のSumit Mohan氏が主導して実施されたもの。コロンビア大学医療センターで2005~2009年に実施された975件の腎移植(生体腎移植427件、死体腎移植548件)について経験豊富な病理医による組織学的所見の特徴を評価し、予後との関連について検討した。
なお、腎臓の質については糸球体硬化や間質線維化などの程度に応じて評価され、生体腎の66.3%、死体腎の50.7%が“最適(optimal)”と判定されていた。
その結果、生体腎移植例の予後が最も優れており、腎臓の組織学的な評価の結果にかかわらず移植から5年後も91.4%で機能が維持されていた。一方、死体腎移植例でも、最適と判定された腎臓の移植例では81.7%が、また準最適な腎臓の移植例では73.2%が移植から5年後でも機能を維持されていた。
Mohan氏は「米国では透析患者の5年生存率は35%だが、腎移植を受けなければ透析を続けなくてはならない。準最適と判定された腎臓であっても、生存上の利益は非常に大きい」と指摘。
使われずに捨てられている多くの臓器
しかし、移植臓器供給米国ネットワーク(UNOS)によると、米国には9万7000人の腎移植待機者がいるが、提供される腎臓の5つに1つは生検の結果などに基づき廃棄されているという。
こうした状況について、米イエール大学医学部のRichard Formica氏は「医師が生検による評価を重視し過ぎているのが問題ではないか」と指摘している。
移植前の腎生検は腎臓の専門医ではない病理医が行うことも多いが、一般の病理医には各臓器の微細な評価は難しく、また生検サンプルを採取した部位によっても結果は異なる可能性もあるという。
同氏は、患者が「完璧ではない腎臓」の移植を受ける機会を得られるよう米国の臓器提供システムを改革すべきだと主張。「患者が70歳なら何年も腎移植を待つべきではない。完璧ではなくとも十分機能する腎臓が得られるなら、移植を受けられ、念願のクルーズにも出かけられるだろう」と話している。