摘出手術をしない「乳がん新薬」を開発(depositphotos.com)
徳島大学の片桐豊雅教授(ゲノム制御学)らの研究グループは、「乳がん患者」の乳房摘出を回避する治療に道を開く新薬「ERAP」を開発し、7月13日から福岡市で開催の日本乳癌学会学術総会で発表した(「産経新聞」2017年7月12日)。
乳房を摘出せず新薬で乳がん治療!3年後の実用化をめざす
今回の研究対象は、女性ホルモンのエストロゲンの刺激によって増殖する「エストロゲン依存性乳がん」だ。このがんは日本人の乳がんの約7割以上を占め、ホルモン療法が行われている。
片桐氏らは、平成22年から28年までの7年間にわたって、乳がん細胞を移植したマウスにタンパク質の一種であるペプチドから作った新薬「ERAP」を週1回、1カ月間投与した。
その結果、新薬「ERAP」の投与によって、がん抑制遺伝子「PHB2」が持つ制御機能が強まったため、エストロゲンの分泌が弱まり、がん細胞の増殖が抑えられる事実を突き止めた。さらに、新薬「ERAP」の分子を化学合成して効能を持続させる実験にも成功。新薬「ERAP」と既存のホルモン剤を併用すると、最終的にがん細胞が死滅した。
片桐氏は、平成26年に乳がん細胞だけにあるタンパク質「BIG3」が、がん抑制遺伝子「PHB2」の働きを阻害する仕組みを解明したことから、今回の研究につながった。
今後は、安全性や有効性を調べる大型動物への非臨床試験を重ねながら、3~5年後をメドに新薬「ERAP」の実用化を視野に入れている。
初期の乳がんは、手術後の再発や転移を防ぐためにホルモン剤が投与されるが、現行のホルモン剤は投与期間がおよそ5~10年と長いため、がん細胞が薬剤耐性を獲得し、副作用が生じるケースが少なくない。
片桐氏は、薬剤耐性を得た乳がんへの効果が実証されたので、術前の一次療法段階から新薬「ERAP」を投与すれば、がん細胞を抑制することも十分に可能だと期待を込める。