抗菌薬の使い過ぎで薬が効かない(depositphotos.com)
2015 年5月の世界保健総会で「薬剤耐性に関するグローバル・アクション・プラン」が採択された。それを受けて厚生労働省は『抗微生物薬適正使用の手引き』の作成を進めている。
「抗微生物薬」は、細菌、真菌、ウイルス、寄生虫に対する抗微生物活性を持ち、感染症の治療、予防に使用されている薬剤の総称。抗微生物薬の中でも細菌に対して作用する薬剤は、「抗菌薬」「抗生物質」「抗生剤」と呼ばれている(以下、本記では、一般的な「抗菌薬」と表記)。
『抗微生物薬適正使用の手引き』をもとに、急性気管支炎といったいわゆる「風邪」などへの抗菌薬処方を見直すよう、国は医師に促すものと考えられる。
これに関連して「日経メディカル Online」では、急性気管支炎に抗菌薬を処方するかどうかのアンケート調査を医師に行っている。その結果によると、「(ほぼ)全員に抗菌薬を処方している」もしくは「基本的に処方するが、患者の状況により処方しないことがある」と回答した医師は57.5%(有効回答3642人)。現状では過半数の医師が抗菌薬を積極的に処方しているとわかった。
とりうみ小児科院長の鳥海佳代子医師は「風邪症状群の原因になる微生物は80~90%がウイルスであると言われています。いわゆる普通の風邪では抗菌薬を内服してもほとんど意味がないということは、多くの医師は知っていると思います。それでも過半数の医師が処方しているわけですから、手引きを出してもどのくらい波及効果があるのかは未知数ではないでしょうか」と語る。
2児の母でもある鳥海医師は、自分の子どもに抗菌薬をほとんど飲ませなかったと、著書『小児科医は自分の子どもに薬を飲ませない』(マキノ出版)で述べている。治療の現場にいる鳥海医師に率直な意見を聞いた。
無意味でも薬を出さなければいけないという医師の葛藤
抗菌薬の使い過ぎで薬が効かない「耐性菌」が出現することが、薬剤耐性の大きな問題点である。
「特に、免疫力の弱い乳幼児や妊婦、高齢者、また、持病を持つ人は、感染症にかかると重症化しやすいため、耐性菌が広まると命の危険が高まります」と政府広報オンラインのページにもある。
鳥海医師は「薬剤耐性への対策は、抗菌薬が効かない感染症を将来的に発生させないという、公共の利益を守るためのものだといえます。しかし風邪症状等で受診する患者さんは、自分の体調が悪いという目の前の問題を解消したいのです。また、『受診したら薬が処方されるものだ』と思い込んでいる患者さんが多いので、公共の利益や診療のあるべき姿と目の前の患者さんの要望の間で、医師は日々葛藤しているのです」と、その現状を説明する。