再生医療やがん免疫細胞治療のガイドラインは?
さて、近い将来、ペットの再生医療に活用される薬剤の有効性と安全性は十分に検証されているだろうか?
2014年の「医薬品医療機器法(旧薬事法)」の施行に伴い、ペットを対象にした再生医療の創薬(体細胞を加工するなど低リスクの第3種再生医療)がスタート。2015年、富士フイルムとペット保険のアニコムホールディングスは、再生医療を扱う合弁会社を設立。大日本住友製薬のDSファーマアニマルヘルスは、ベンチャー企業J-ARMと連携し、2018年までに世界初のペット用細胞薬の承認申請をめざしている。
一方、農林水産省は、平成30年度(2020年)をメドに、薬剤の品質や安全性を確保するガイドラインを作成するために「動物用再生医療等製品の安全性試験等開発事業」を推進している。さらに、日本獣医再生医療学会と日本獣医再生・細胞療法学会は、獣医師が治療を実施する「ペットの再生医療に関するガイドライン」を初めてまとめた(「毎日新聞」 2017年4月3日)。
人間の再生医療は「再生医療安全性確保法」に基づいて国に届け出なければならない。しかし、ペットの再生医療やがん免疫細胞治療は、獣医師に治療方針の判断や治療費の算定が委ねられているため、治療の実効性や安全性への懸念や治療費をめぐるトラブルが急増していることから、ガイドライン規制の機運が高まった。
ガイドラインによれば、再生医療やがん免疫細胞治療の実施は、身体の機能を損なわれ、生命を脅かされる重篤な疾患に限定され、実施する時は第三者機関に届け出なければならない。
また、再生医療の実施は、関節炎の再生医療や一部のがん免疫細胞治療などの科学的に治療効果が期待される場合だけに限られる。遺伝子操作した細胞、iPS細胞(人工多能性幹細胞)、ES細胞(胚性幹細胞)を使う場合は、治療の実施機関内の倫理審査委員会の審査を受けなければならない。
さらに、獣医師は、科学的に治療効果が期待される場合でも、明確なエビデンスは確立されていない事実を飼い主に明瞭に告知・説明する義務がある。
さて、これで万事うまくいくのか? ガイドラインは自主規制にすぎない。しかし、ないよりははるかにいいに決まっている。
連日のように報道される再生医療や免疫療法の進歩には目を見張るものがある。よほどの専門家ではない限りその進歩やエビデンスに追いつくことは難しい。その隙間や弱みをついて人間に対する治療の世界では、エビデンスがない上に法外な料金を支払わせる詐欺的なクリニックが後を絶たない。人間の命をもてあそぶ医師が多すぎる。
ペットの再生医療やがん免疫細胞治療も携わる獣医師の良識と行動にかかっている。
(文=編集部)