シリーズ「中村祐輔のシカゴ便り」第17回

まともな免疫療法の科学的検証を~がん患者の半数が治癒可能になる時代⑤

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

政治も、行政も、研究者も、患者さんたちを救う手立てを考えて欲しい

 免疫チェックポイント抗体が効きやすい人、効きにくい人の、がん組織を取り巻く環境は、単純化すると下記の図のようになっている。がん組織のPD-L1が高い症例が効きやすいとされているが、そのような症例では、CD8リンパ球(細胞傷害性を持つリンパ球)が増えていることが多い。

まともな免疫療法の科学的検証を~がん患者の半数が治癒可能になる時代⑤の画像3

 すなわち、がん組織内にあらかじめがんを攻撃するリンパ球予備群の存在が重要だ。がんを守る免疫力を抑え込んでも、がんに対する攻撃力が備わっていなければ、当然ながら、効果がないのだ。

 では、さらに免疫療法の効果を高めるにはどうすればいいのか。いろいろと手段はあるが、素直に考えれば、がんを攻撃するリンパ球を増やす方法が頭に浮かぶ。

 しかし、それが高額であっては、患者さんに負担となって跳ね返ってくる。この観点では、ペプチドワクチン療法(オンコアンチゲンや、最近注目のネオアンチゲン)、あるいは、これらで樹状細胞を刺激した治療法が考えられる。

 これがもっともっと検証され、有効性が科学的に実証されれば、日本には大きな強みとなる。私が信じていることだけでは、屁のツッパリにもならないだろうが、とにかく私は信じているし、それを実証していきたい。

 嫌なもの、ゲテモノという視点で、目を逸らしていても、似非免疫療法クリニックはなくならないし、患者さんや家族を不幸にするだけだ。科学的な目を向ければ、国として取り組み、評価していくことは当然の流れだと思う。

 「可能性があるなら、それを科学的に評価していく」、これができないから、日本はこのようになったのだ。政治も、行政も、研究者も、現実に目を向けて、患者さんたちを救う手立てを考えて欲しいと願っている。

『中村祐輔のシカゴ便り』より抜粋


バックナンバー「中村祐輔のシカゴ便り」

中村祐輔(なかむら・ゆうすけ)

がん研究会がんプレシジョン医療研究センター所長。1977年、大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院外科ならびに関連施設での外科勤務を経て、84〜89年、ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、医学部人類遺伝学教室助教授。89〜94年、(財)癌研究会癌研究所生化学部長。94年、東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。95〜2011年、同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005〜2010年、理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年、内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長、2012年4月〜2018年6月、シカゴ大学医学部内科・外科教授兼個別化医療センター副センター長を経て、2016年10月20より現職。2018年4月 内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)プログラムディレクターも務める。

中村祐輔の記事一覧

中村祐輔
バナー1b.jpeg
HIVも予防できる 知っておくべき性感染症の検査と治療&予防法
世界的に増加する性感染症の実態 後編 あおぞらクリニック新橋院内田千秋院長

前編『コロナだけじゃない。世界中で毎年新たに3億7000万人超の性感染症』

毎年世界中で3億7000万人超の感染者があると言われる性感染症。しかも増加の傾向にある。性感染症専門のクリニックとしてその予防、検査、治療に取り組む内田千秋院長にお話を伺った。

nobiletin_amino_plus_bannar_300.jpg
Doctors marche アンダカシー
Doctors marche

あおぞらクリニック新橋院院長。1967年、大阪市…

内田千秋

(医)スターセルアライアンス スタークリニック …

竹島昌栄

ジャーナリスト、一般社団法人日本サプリメント協会…

後藤典子