ギャンブル依存症の患者を追い詰めるコトバ
ギャンブル依存症の人には、家族や周囲の人も「二度とするなよ」「こっそりやってないだろうな」――こんな言葉を日常的に投げかけたくなる。ところが、「ギャンブルをやってはマズイ」と自覚している場合、それは逆効果になる。
「ダイエットに例えると分かりやすいかもしれません。痩せたいのに痩せられない――こんな思いでいる人に対して、「何で腹八分目にできないのか」「お前は痩せる気がないだろう」などと問うても追い詰めるだけ。それどころか、自暴自棄になり、もっと食べてしまうかもしれません」
山下医師によれば、こうした例え話で説明をすると、多くの家族が理解を示してくれるという。そもそも、家族の注意や確認でギャンブル癖がおさまるなら、わざわざ治療を受けに訪れるわけがないのだ。
ギャンブル依存症が恐ろしいのは、大量の借金による生活や人間関係の破綻だ。仮に「病気」が再燃してギャンブルを行ったとしても、一度だけなら、大事には至らない。これが、違法薬物の依存症とは異なる点だ。
しかし、日ごろから家族に「二度とするなよ」「あんたのせいで、うちの家計は……」と言われていたら――。
「患者のギャンブル癖が再燃したときに、『またやってしまった』『家族にバレたら大変なことになる』『損を取り戻そう」と考え、さらにギャンブルを繰り返し、再び借金ができてしまうケースがほとんどなのです」
「ギャンブル依存症の患者には、家族や周囲の人は、確認や念押しではなく、治療が始まれば、一歩離れて見守っていて欲しいのです。そして、『この病気は再発が多いらしいから、もし、またギャンブルをしてしまったら、絶対に怒らないので必ず教えてね。それから、一緒に主治医の所に行こうよ』と、年に数回程度だけ伝えるようにしていただきたい」(山下医師)
ゴメン、また悪いクセが出た
では、患者自身は、どのように対峙していくべきなのだろうか。
「患者自身にも、<再燃>したときの対処法をしっかりと伝え、診察室で練習もしてもらいます。これは魔法の言葉だからね――。患者自身が『この言葉が自分を救ってくれる』と信じてもらうために、私はこんな前置きをして伝えています」
「もし、やってしまったら『ゴメン、また悪いクセが出た』。必ずこのコトバを家族に言うと、あらかじめ決めておくのです。これさえ家族に伝えることがでれば、ギャンブルを一度きりにとどめることができます。そして、受診予定日でなくとも家族とクリニックを受診して、治療計画を立て直すのです」
では、具体的には、どのような治療を行っているのだろうか。
「具体的には、毎週土曜日、私が行う<集団カウンセリング>が治療の要となります。内容は、依存症の脳科学、心理学、そして哲学を1クール16時間、症状に応じて1~3クール(4カ月~12カ月)徹底的に学んでいただきます。そして、これらが終了した後は、私の専門外来で治療を続けます」
集団カウンセリングという形態を取り入れる一番の理由は、患者の負担軽減だという。ギャンブル依存症の人は、金銭的に困窮している場合がほとんどだからだ。そのため、集団で行っても治療効果が落ちないようなプログラムを綿密に立てられている。
「現在、毎週50人ほどの患者さんが集り、1回につき1000~3000円の負担額で治療を受けています。『自分はギャンブル依存症かもしれない』『ギャンブルで借金を繰り返してしまっている』こんなことに心あたりがあれば、まずは気軽にご相談ください」(山下医師)
(取材・文=野島茂朗)
山下悠毅(やました・ゆうき)
医療法人社団榎会榎本クリニック院長。専門はギャンブル依存症、性依存症、うつ病の集団認知行動療法。現在、毎月のべ1000人以上の依存症患者を治療している。榎本クリニックのグループの5院における依存症治療の統括も行う。精神神経学会認定専門医、精神保健指定医、認定産業医。性とこころ関連問題学会理事。ブログ:「プラセボのレシピ」 http://www.0004s.com/app-def/S-102/blog/。「榎本クリニックホームページ」。
野島茂朗(のじま しげあき)
ジャーナリスト。週刊誌記者出身で、犯罪研究家や詐欺研究家などの肩書でコメンテーターとしてもメディアで活躍。