連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」第31回

タリウム事件の元名大生に無期懲役! 販売規制のない毒物「硫酸タリウム」の不思議

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タリウム事件の元名大生に無期懲役! 販売規制のない毒物「硫酸タリウム」の不思議の画像1

かつては殺鼠剤として市販されていた硫酸タリウム(depositphotos.com)

 3月24日、名古屋地方裁判所は、「タリウム事件」の名古屋大学の元女子大生に、求刑通りの無期懲役の判決を下した――。

 この事件は、当時、高校2年生だった被告が、「中毒症状を見てみたい」という動機で、中学の同級生女性と高校の同級生男性に、それぞれ0.8gと1.2gの硫酸タリウム(致死量は1.0g)を飲ませたというものである。さらにその2年後には、「人が死ぬ様子を見たい」という動機で、知人の老女の頭を殴りマフラーで首を絞め殺害し逮捕された。

 事件の概要や判決の内容については、新聞やテレビなどの報道でご存知かと思われるが、本稿では、以前は殺鼠剤として広く流通していた硫酸タリウムに関して、その毒性および私が経験した中毒例について解説する。 
 

硫酸タリウムによる自殺事件が多発

 殺鼠剤として使われていた硫酸タリウムは、ヒトへの毒性も強いため、かつては自殺目的の大量服用事件が多く認められた。そのため現在は、ヒトへの毒性は低いが殺鼠剤としては有用なワルファリンなどの製剤に切り替えられている。

 硫酸タリウムの毒性は強力だが無味無臭で、ヒトの致死量は前述の通り1.0g。服用後、嘔気、嘔吐、腹痛、食欲低下、下痢、消化管出血などの消化器症状が出現する。また摂取後2~3週間で脱毛が認められるのが特徴だ。

 さらに神経症状として、傾眠、昏睡、けいれん発作、失明、顔面神経麻痺を認めることが多く、呼吸困難や循環不全などが死因となる。 

 1992年、大学の動物実験施設の職員が、タリウムを混入した水を同僚に飲ませて殺害している。また、2005年には、女子高生が硫酸タリウムを数カ月間、母親に飲ませて容態の変化を観察。母親は一時、意識不明の重体に陥ったが、命はとりとめた。女子高生は精神疾患を認めたため、医療少年院に送致された。

横山隆(よこやま・たかし)

小笠原記念札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認定クリニカルトキシコロジスト、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。
1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長などをへて現職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。

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