かつては殺鼠剤として市販されていた硫酸タリウム(depositphotos.com)
3月24日、名古屋地方裁判所は、「タリウム事件」の名古屋大学の元女子大生に、求刑通りの無期懲役の判決を下した――。
この事件は、当時、高校2年生だった被告が、「中毒症状を見てみたい」という動機で、中学の同級生女性と高校の同級生男性に、それぞれ0.8gと1.2gの硫酸タリウム(致死量は1.0g)を飲ませたというものである。さらにその2年後には、「人が死ぬ様子を見たい」という動機で、知人の老女の頭を殴りマフラーで首を絞め殺害し逮捕された。
事件の概要や判決の内容については、新聞やテレビなどの報道でご存知かと思われるが、本稿では、以前は殺鼠剤として広く流通していた硫酸タリウムに関して、その毒性および私が経験した中毒例について解説する。
硫酸タリウムによる自殺事件が多発
殺鼠剤として使われていた硫酸タリウムは、ヒトへの毒性も強いため、かつては自殺目的の大量服用事件が多く認められた。そのため現在は、ヒトへの毒性は低いが殺鼠剤としては有用なワルファリンなどの製剤に切り替えられている。
硫酸タリウムの毒性は強力だが無味無臭で、ヒトの致死量は前述の通り1.0g。服用後、嘔気、嘔吐、腹痛、食欲低下、下痢、消化管出血などの消化器症状が出現する。また摂取後2~3週間で脱毛が認められるのが特徴だ。
さらに神経症状として、傾眠、昏睡、けいれん発作、失明、顔面神経麻痺を認めることが多く、呼吸困難や循環不全などが死因となる。
1992年、大学の動物実験施設の職員が、タリウムを混入した水を同僚に飲ませて殺害している。また、2005年には、女子高生が硫酸タリウムを数カ月間、母親に飲ませて容態の変化を観察。母親は一時、意識不明の重体に陥ったが、命はとりとめた。女子高生は精神疾患を認めたため、医療少年院に送致された。