原発イジメ・差別・風評被害に苦しむフクシマの実態(depositphotos.com)
東日本大震災から6年――。地震・津波・原発事故のトリプル後遺症が、今なお被災者や支援者を過酷に揺さぶっている。差別や偏見の矛先は、福島原発所員や除染作業員にも向けられている。
順天堂大学大学院医学研究科・公衆衛生学講座の野田愛准教授、谷川武教授らの研究グループは、福島原子力発電所員の「メンタルヘルスに関する追跡調査」を実施。災害関連体験と心的外傷後ストレス反応(PTSR)や精神的苦悩(GPD)との因果関係を究明した。この研究成果は、医学雑誌『Psychological Medicine』Vol47.2017(http://journals.cambridge.org/psm )に発表される。
差別・中傷による心的外傷後ストレス反応(PTSR)に悩む福島原発所員
研究グループは、震災直後の2011年5〜6月に福島原発所員1417名(第一原発=1053名、第二原発=707名)を対象に「自己記入式アンケート調査」を実施した。
この調査では、自分の生命に危険が迫る体験や発電所の爆発などの「惨事ストレス」、同僚を失った「悲嘆体験」、財産喪失や自宅からの避難などの「被災者体験」、「差別・中傷」などの社会批判の災害関連体験を経験した所員と、経験しなかった所員に分け、「出来事インパクト尺度(IES-R)」を用いて、2011年から2014年までの災害関連体験とPTSRやGPDの長期的変化との関連性について分析した。
「出来事インパクト尺度」は、PTSRの重症度を評価する自記式質問紙だ。最近1週間の22項目の症状の強度を0〜4点として加点(最大88点)し、出来事インパクトを評価する。この調査では IES-R25点以上を「心的外傷後ストレス反応あり」と判断している。
分析の結果、「惨事ストレス」「悲嘆体験」「被災者体験」「差別・中傷」などの災害関連体験を経験した所員のPTSRリスクは、時間とともに徐々に低減するものの、経験していない所員に比べると、3年経過後もPTSRリスクが持続していた。
特に「差別・中傷」などの社会批判を受けた所員のPTSRリスクは、受けていない所員に比べて2011年時点で約6倍、2014年時点で約3倍も高かった。また、同僚を失った「悲嘆体験」がある所員のPTSRリスクは、経験のない所員に比べて2011年時点でも2014年時点でも約2倍も高かった。
この調査によって「惨事ストレス」「悲嘆体験」「被災者体験」「差別・中傷」などの災害関連体験は、長期間にわたって続くため、PTSRやGPDに強い影響を及ぼす事実が判明している。
PTSRは、自然災害が及ぼす強いストレスやトラウマへの正常な心理的反応!
自然災害は、「個人的なトラウマ」と「集団的なトラウマ」をもたらす。
災害による強いストレスやトラウマを受けると、自己が著しく脅かされたと感じるため、安心感や安全感が保てなくなるが、このすべての人が多かれ少なかれ経験する正常な心理的反応、それがPTSRだ。
PTSRは、繰り返し思い出す再体験(侵入)、現実を避けたり、感情が麻痺する回避・麻痺、神経過敏になる過覚醒などの症状を示すものの、時間とともに軽快し、回復に向う。
だが、時間が経過しても軽快しなければ、トラウマ体験をフラッシュバックするASD(急性ストレス障害)や、ASDの症状が1カ月以上続き、トラウマ反応が終息しないPTSD(外傷後ストレス障害)につながる。
PTSRからASD、PTSDへ変化するか否かは、トラウマの強さ、ストレス受容力、メンタルヘルスのサポート体制、生活習慣などの要因が深く関わるので、個人差が大きい。
今回の調査によると、精神科医や臨床心理士がメンタルヘルスの不調を訴える所員に対して、災害後、4~12カ月間にわたり継続的な治療や心理カウンセリングを提供しつつ、トラウマに対する精神的な支援を行ってきたという。
今後は、原発事故だけでなく、自然災害の被災者・支援者に対する組織的な介入や長期的な支援を継続しつつ、メンタルヘルスを良好に保つ取り組みがますます求められるだろう。