福島デマ、放射能ヘイト、放射能イジメが蔓延するのはなぜ?
このような悲惨な震災関連体験にさらされているのは、福島原発所員だけではない――。「福島県産の食品は危ない」などの根も葉もない福島デマ、「放射能がうつる」などのいわれのない放射能へイトや放射能イジメが蔓延している。
復興庁によると、2017年2月28日現在、県外避難者は約12万3000人。このうち18歳未満の子どもは9252人にのぼる。これまでの報道で周知の通り、150万円の現金を恐喝された横浜の中学生や、名前に「菌」をつけ呼ばれた新潟の小学生など、子どもへの放射能イジメは、依然として減る兆しはない。
NHKと早稲田大学人間科学学術院の辻内琢也教授は、福島県から避難した被災者を対象に「原発避難イジメに関するアンケート調査」を実施している(「NHK NEWS WEB」2017年3月9日)。
調査によれば、回答した741人のうち、子どもが学校などでイジメられたと答えた人は54人(7.3%)。避難先などで嫌がらせや精神的苦痛を感じたことがあると答えた人は334人(45%)に上った。
その内訳(複数回答)は、賠償金に関するイジメ274件(37%)、避難者であることを理由としたイジメ197件(27%)、放射能を理由としたイジメ127件(17%)だ。
具体的には、避難者であることを理由に団地の行事に参加できなかった、自動車を傷つけられた、賠償金をもらっているという理由のため転職先で資格や給与をもらえなかったなど、避難者への冷酷な嫌がらせやイジメが、子どもだけでなく大人にも日常的に広がっている。
辻内教授は、賠償金が生活環境やふるさとを奪われた人たちに対する償いであるということが忘れ去られている、多くの人たちが原発事故の被害が今でも続いていることを知ることが大切と指摘する。
「避難者は被害者である」という認識が社会に欠けている
さらに、朝日新聞社と福島大学の今井照教授が実施した「避難者への共同調査」でも、突然、故郷から引き離され、慣れない土地で生きる避難者が、心ない言葉や態度にさらされて胸を痛めている実態が浮き彫りになった(朝日新聞:2017年2月26日)。
たとえば、「なんで福島に帰らないの?」「いくら賠償金をもらえるの?」「福島から種を持ってきたんなら、この畑は放射能に汚染されているんだろう」などの心ない言動が避難者の胸を逆撫でている現実がある。
今井教授によれば、この調査によって避難者イジメに遭う人が多い事実、福島県の避難者であることを明かせない人が少なくない実態、「避難者は被害者である」という認識が社会に欠けている状況が確かめられたと強調する。
その背景には、原発事故の責任者が明確でない、国も国有化された東京電力も刑事責任を問われていない、除染費用が国民の負担に転化されているなど、原発事故の加害構造が見えにくくなっている実状がある。
その結果、避難せざるをえない状況に追い込まれた「避難者は被害者である」という社会の認識が弱まっている。打開への道筋は見えるだろうか?
南相馬市立総合病院の澤野豊明医師は、放射線災害の差別をなくすためには、放射線に関する正しい知識が国民の間で共有されなければならないと強く指摘する(「MRIC医療ガバナンス学会」2017年2月13日)。
http://medg.jp
リスクマネジメントを研究する企業コンサルタントの西澤真理子氏によれば、人間は自分の仮説や信念に都合のいい情報を集めるバイアス(偏り)が働きやすいため、論理よりも感情が優先するという(「Buzz Feed」2017年3月5日)。(http://www.buzzfeed.com/satoruishido/3-11-com munication)
たとえば、インターネット上に福島県産の食品は危ない、子どもに食べさせてはいけないなどのデマに惑わされやすい。だが、福島県産食品のデータを調べれば、簡単に否定できる情報であることを知ってほしいと、西澤氏は主張している。
原発トラウマも福島デマも、放射能ヘイトも放射能イジメも、その根は同根に見える。知りたくない、見たくない、近づきたくない、触れたくない。そこに潜む差別心理は、汚染や異物を忌み嫌う集団恐怖心かもしれない。
さらには、原発事故でどれほど多くの人々が傷つき、トラウマを抱えて生きているということに想像力が及ばず、いじめや差別発言をするやからの無感覚、共感能力の欠如、精神的な病理もやはりきちん研究対象にして欲しい。明らかに病んでいると思うのだが。
(文=編集部)