チェルノブイリ原発の石棺を丸ごと覆う巨大な新シェルター(shutterstock.com)
史上最悪の原発事故から30年を迎えた、ウクライナのチェルノブイリ原発。事故で爆発した4号機では、コンクリートで覆った「石棺」の老朽化が激しく、現在は巨大な新シェルターで石棺を丸ごと覆って放射性物質の飛散を防ぐ計画が進められている。
資金を拠出している欧州復興開発銀行(EBRD)によれば、地震や竜巻にも耐えるように設計された新シェルターの建造費用は、最終的に15億ユーロ(約2000億円)かかる見込みだという。
ただし、石棺の解体など、廃炉作業の具体的な目処はたっていない。維持管理の資金面でも不安は残っている。
一方、日本でも福島第一原発の事故から5年間、事故後の状況を打開するための解決法を必死で模索し続けている。だが、原発の敷地内では、原子炉建屋に流入する地下水が1日に300~400トンに上り、炉心から溶け落ちた燃料と混じり合って生じる汚染水の処理に追われている。
タンクに保管されている汚染水の総量は80万トン。敷地を埋め尽くす勢いだ。関係者は「このままではタンクを造ることができるゾーンは数年でなくなる」と懸念。汚染水の海洋放出が現実味を帯びてきた。
すでに原発事故の発生から5年間で、損害賠償や除染、汚染水対策などで国民が負担した額は、確定分だけで3兆4613億円を超えることが報じられている。
奇しくも、4月14、16日に襲った熊本地震は「地震大国」であることをあらためて知らしめた。気象庁は「依然として地震活動は活発な状況」と警戒を呼びかけており、原子力発電所への影響も懸念される。
一連の震源域の近くには、全国で唯一稼働している川内原発(鹿児島県)と伊方原発(愛媛県)があるからだ。一度、重大な事故が起きれば、回避できない巨大なリスクを抱えているが、原子力規制委員会は川内原発の運転を止めず、その他の原発でも再稼働に向けた準備が進んでいる。
被ばく限度のダブルスタンダード
その一方で、4月10日、福島第一原発事故で全村避難が続く葛尾村の避難指示解除(帰還困難区域を除く)について、政府の原子力災害現地対策本部と村は、住民説明会で6月12日に解除する方針を伝えた。
説明会での質疑応答では、一部の参加者から、村内の空間放射線量についての不安とともに帰還への懸念の声が上がった。国は、宅地、農地、道路、森林を対象に除染を進めているが、日常的に人が立ち入らない森林は、生活圏(宅地、農地など)から20mの範囲に除染を限定している。
また、村内には除染廃棄物が入ったフレコンバッグが積まれており、放射能汚染による健康被害の不安が払拭されないのだ。
昨年末、『美味しんぼ』の作者である雁屋哲氏と北海道がんセンター名誉院長の西尾正道医師は、講演「福島への思い★美味しんぼ『鼻血問題』に答える」で実体験を交えながら、医学的な考察を語っている。
事故後、取材で福島を訪れている雁屋氏は、年間被ばく限度のダブルスタンダードについて言及している。
「行政は一般人の年間被ばく限度を事故前は1ミリシーベルトだったのを、事故後20ミリシーベルトに引き上げて、『被ばく限度以下の数値だから大丈夫』とした。本来、20ミリシーベルトはあくまで緊急事態の数字なのに」
西尾医師は、「チェルノブイリの場合、年間の限度5ミリシーベルトで強制移住させた。しかも、そこには内部被ばく(2ミリシーベルト)が考慮されている。一方、福島では1ミリシーベルトから20ミリシーベルトと引き上げられた上に、内部被ばくの数字が考慮されていない」と指摘した。
飛散する微粒子と内部被ばく
福島市や郡山市といった都市を含め、福島各地の除染はかなり進んでいるが、西尾氏は「空間線量だけで議論してはいけない」という。
「2013年7月、南相馬市の某小学校に前にハイボリュームダストサンプラーを地上1mの地点に10日間設置しました。それをイメージングプレートに重ねて画像化したところ、事故後2年以上たっているにも拘わらず、放射性物質を含んだ微粒子が大気を浮遊していることがわかった」
「微粒子が飛んでいるので、Tシャツを洗っても洗っても微粒子が付着したままとれなかったり、散髪した髪を測ったら110ベクレルほど出たりした」
「日々の生活で、こうした微粒子を吸い込んでいる。放射性微粒子はPM2.5以下の大きさだから肺胞に入る。これは肺がんの原因になる。私は『長寿命放射性元素体内取込症候群』と名づけているが、長期的な健康被害のリスクを考慮しなければならない」