連載「救急医療24時。こんな患者さんがやってきた!」第8回

「急性アルコール中毒」での搬送が実は…… 意識障害と嘔吐の原因は別にあった!

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急性アルコール中毒ではない患者の見分け方

 急性アルコール中毒による意識障害という事前情報でERに来院する患者の中に、本当は急性アルコール中毒ではない場合が時としてある。そのような場合、大部分の原因は、酔って転倒後の頭部打撲で、外傷性頭蓋内出血による意識障害である。

 急性アルコール中毒時の頭部外傷は、明らかな頭部外傷の痕や頭部外傷の現場を誰かが見ていればわかるが、そうでない場合は見逃される危険もある。

 外傷性頭蓋内出血があるにもかかわらず、急性アルコール中毒による酩酊た、単に寝ているだけだと見なされて、その後いつまでたっても覚醒しないため救急搬入され、その時には瀕死の重傷という場合も少なくない。

 今回のような、急性アルコール中毒と脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)が同時に起こるケースは珍しいが、急性アルコール中毒の患者の意識障害の除外診断としては、前述した外傷性頭蓋内出血の次に重要である。

 脳卒中の中でも脳梗塞や脳出血は片麻痺が出ることがほとんどであるため、その診断は比較的、容易である。しかし、今回のようなくも膜下出血は、片麻痺を起すことはまずない。

 意識障害と嘔吐という、急性アルコール中毒とよく似た症状であるため、診断が難しくなる。そのため、急性アルコール中毒と意識障害の患者に対しては、常に頭蓋内疾患を考えた診察が必要となる。

 急性アルコール中毒で酩酊状態になっている人が、別の原因で意識障害を起こしたとしても、周りの人は気づきにくい。そのため発見が遅れる場合がある。今回は患者の同僚が、おかしさと恐ろしさを感じて病院に連れてきてくれたため、早期の対応が可能となった。非常にラッキーなケースである。

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河野寛幸(こうの・ひろゆき)

福岡記念病院救急科部長。一般社団法人・福岡博多トレーニングセンター理事長。
愛媛県生まれ、1986年、愛媛大学医学部医学科卒。日本救急医学会専門医、日本脳神経外科学会専門医、臨床研修指導医。医学部卒業後、最初の約10年間は脳神経外科医、その後の約20年間は救急医(ER型救急医)として勤務し、「ER型救急システム」を構築する。1990年代後半からはBLS・ACLS(心肺停止・呼吸停止・不整脈・急性冠症候群・脳卒中の初期診療)の救急医学教育にも従事。2011年に一般社団法人・福岡博多トレーニングセンターを設立し理事長として現在に至る。主な著書に、『ニッポンER』(海拓舎)、『心肺停止と不整脈』(日経BP)、『ERで役立つ救急症候学』(CBR)などがある。

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