不要な投薬を繰り返していた医師が詐欺容疑で逮捕(depositphotos.com)
ヒポクラテスが泣いている――。医学の祖・ヒポクラテスは、医師の職業倫理について現代まで語り継がれている「ヒポクラテスの誓い」を遺した。医師としての名誉と高潔な伝統を守り続けることを誓うのだ。
<医師は崇高な精神の持ち主>という、世間の認識を揺るがす事件が発覚した。今年1月17日、「新宿セントラルクリニック」(東京都)の林道也院長が詐欺容疑で逮捕された。
性病ではない患者に対して故意に虚偽の診断を下し、不要な投薬を繰り返して治療費を詐取したというものだ。
告発者のA氏は2012年9月、陰部に湿疹ができたので同クリニックに立ち寄った。林容疑者は陰部の診察もせず採血し、1週間後に「クラミジア感染症」と診断した。A氏は以後、3カ月通院して投薬治療を受けた。
ロキソニン、プロテカジン、グレースピッド、アイピーディカプセル、ザイザルを林容疑者は十数回にわたって処方し、代金計約2万6000円をだまし取った。
「クラミジアの治療には処方した薬は妥当だが、通常2週間もあれば完治する。3カ月という処方期間は長すぎる」(医療関係者)
体調に異変が現れたA氏が別の診療所で遺伝子検査を受けたところ、陰性とされた。湿疹は汗疹だった。そもそも性病にかかる心当たりもなかった。
行政機関には強制力がないから民事訴訟、刑事告発へ
A氏はクリニックに投薬治療前の検査機関による血液検査のデータの開示を求めたが、林容疑者は応じなかった。
同クリニックの問題に関して東京都に取材したところ、「健康保険法、国民健康保険法等に基づいて厚生局の東京事務所と共同で指導、監査を実施している。苦情などの情報を共有し、精査して指導、監査する。監査の結果、保険医療機関等取消し処分になった場合には公表しているが、個別の保険医療機関の指導、監査の進捗状況に関しては公表していない」とのこと。
また、「病院に関する苦情相談は福祉保健局の医療安全課が管轄となるが、19床以下の診療所、クリニックは区の保健所が管轄。今回の案件は新宿保健所の管轄になる」との回答を得た。
同クリニックを保険医療機関取消処分にする他は都の介入の余地はないようだ。管轄の新宿区の保健所には、平成26年度から平成28年度までに9件の苦情があった。
「そのうち7件は性病関係だった。事実確認をするために複数回立ち入り検査を行ない事実確認を行った。平成27年11月には、医療法の規定に基づき改善指導をしている」(新宿区保健所衛生課)
改善指導には強制力がないので、改善されることはなかった。A氏は弁護士を立てずに民事訴訟、刑事告発に踏み切った。