92%で抑うつや不安の改善などの治療反応
米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン医療センターのStephen Ross 氏が率いた第1の研究では、進行がんである患者29人(平均年齢56.3歳、範囲22~75歳)を無作為に2群に割りつけ、シロシビンまたはビタミン剤を1回投与した。
シロシビンを投与した患者の80%に急速な苦痛の緩和が認められ、不安および抑うつの検査スコアによれば、その効果は6カ月持続した。安全性に関しては、重篤な有害事象は両群で認められず、ベンゾジアゼピン系薬や抗精神病薬などを追加する必要性が生じた例やシロシビンの乱用や中毒に至った例もなかった。
第2の研究では、米ジョンズ・ホプキンス医科大学(ボルチモア)の研究グループが、抑うつや不安を有する進行がん患者の成人51人を、シロシビンを低用量を投与し、5週間後に高用量を投与する群と、高用量を投与してから5週間後に低用量を投与する群にランダムに割り付け比較した。
その結果、高用量を最初に投与した群では抑うつや不安が大幅に改善し、投与から5週時点の治療反応率は低用量群の32%に対して高用量群では92%に達した。さらに、対象例の80%で抑うつや不安の軽減効果が6カ月間続いた。
なお、同試験でも神秘体験と抑うつや不安の評価スコアとの間に有意な関連が認められたと、研究を率いた同大学教授のRoland Griffiths氏は述べている。いずれの研究も訓練を受けた監視員による管理の下で実施されている。
紆余曲折を経て検討が進む幻覚剤の医療用研究
エクスタシーや幻覚キノコなどの医療利用の研究は、長い歴史を持つ。
1950年代におこなわれた幻覚剤研究で、シロシビンやLSDが頭痛に対して有効性を持つとされた。1960年代から1970年代にかけてはリゼルグ酸ジエチルアミド(LSD)を用いた複数の研究が実施され、その一部で有効性が示されていた。
1980年代には、MDMAの治療効果の有効性関するデータを発表されたが、はストリート・ドラッグとして普及してしまったためアメリカの規制当局は違法な薬物として「スケジュール1」に指定している。医師がMDMAを治療に使用したり配布することが違法となってしまったのだ。
さらに幻覚剤の医療利用に関する研究が足踏みを余儀なくされたひとつの事件があった。2002年9月、国立薬害研究所(NIDA)の資金提供で、ジョージ・リコート博士とウナ・マッキャン博士が、MDMAはドーパミンを分泌するニューロン(神経細胞)を破壊するという研究結果を発表したのだ。
その1年後、この研究が間違っていたことが判明した。リコート教授は、MDMAではなく塩酸メタンフェタミンを使っていたのだ。
こうした紆余曲折を経て、シロシビンなどの医療用研究に対してFDA(アメリカ食品医薬品局)やDEA(麻薬取締局)の規制が緩和されてきた。
2つ目の研究の付随論説の共著者で米ニューヨークプレスビテリアン病院の精神科医であるDanielShalev氏は、「違法薬物の研究は難しいが、その有用性が示されつつある」と指摘している。
昨年、医療用大麻の推進を掲げた元女優の高樹沙耶が参院選東京選挙区に立候補して落選した挙句、自らの嗜好利用の疑いで逮捕され、1月23日の初公判後に保釈されたというまったくもって、ダメな事件があった。正直、いい加減にしてほしいと思う。
病で苦しむ患者がいて、不安や抑うつ状態から少しでも助け出すことができるのであれば、その可能性が少しでもあるのであれば、日本でも幻覚剤の医療利用に関するしっかりとした議論と研究が進むことを期待したい。
(文=編集部)