モルヒネを大量に投与されたら死期が近いはウソ!? 緩和ケアへの誤解が、がん治療の妨げになる!

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緩和ケアの始まりは終わりの始まりではないshutterstock.com

 緩和ケアというと、どのようなイメージを持つだろうか。「ほかに治療手段がなくなった時に行うもの」「死を迎えつつある患者に行うケア」と思う人が多いかもしれない。

 しかし、これは大きな誤解だ。緩和ケアは、がんに伴う身心の苦痛・つらさに対する積極的な治療であり、「がんと診断されたら同時並行で始める」ことが必要な、発症早期からの治療である。日本では2007年のがん対策基本法にうたわれた頃から、その取り組みが本格化したが、WHO(世界保健機関)はすでに2002年に「緩和ケアは疾患の発症早期から始まる」と定義している。

痛みを取り除くだけでなく延命効果もある

 緩和ケアは単に苦痛を取り除くだけではない。それどころか、患者を元気にし、延命をもたらす効果もある。

 痛みを我慢すると不眠や食欲不振に陥り、気持ちも沈んでしまう。するとなおさら痛みを強く感じ、手術、抗がん剤治療、放射線治療などができなくなったり、治療の効果が上がりにくくなったりする。逆に痛みを取れば体が楽になるだけでなく、治療の効果も上がるのだ。

 日本人は痛みをぎりぎりまで我慢してしまう人が多いようだが、がん治療に関してはその習慣を捨て、小さな痛みも訴えて取り除いてもらい、楽に過ごすのが得策らしい。

 痛みの取り方は、1980年代にWHOが定めた方法に基づく。痛みの程度に応じて鎮痛効果の弱い薬から強い薬へと、3段階で進めていく方法だ。

 1段階目は、市販薬にもあるアスピリン、アセトアミノフェンなどの非オピオイド鎮痛薬。2段階目が、コデイン、トラマドールなどの弱オピオイド鎮痛薬。3段階目が、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなどの強オピオイド鎮痛薬となっている。

モルヒネ中毒は起こらない

 アメリカでこのような研究結果がある(Bercovitch M, et al, Cancer 101, 1473-1477, 2004)。抗がん剤が効かなくなり、痛みを取るためにモルヒネを服用している再発・転移がんの患者を、モルヒネの使用量の差で4つのグループに分けて生存期間を調べた。結果は、最もモルヒネを多く使用したグループがいちばん長生きしたのだ。副作用は4グループ間で差がなかった。

 モルヒネは「中毒になる」「廃人になる」などと考える人がいるが、これは大きな誤解だ。痛みのない人が使うと薬物依存になりやすいのは確かだが、痛みのある人が使っても決して薬物依存は起こらない。

 また、「モルヒネが次第に効かなくなって量が増える」「大量に使うようになったら死期が近い」という誤解もある。こうした誤解から服用量を抑えると、痛みを十分に取り除けない。モルヒネが効かないと訴える人の中には、服用量が不足している場合がある。十分に痛みがとれる量のモルヒネを使うことが延命効果をもたらすのは、先ほどの研究結果で明らかである。

長生きするだけでなくQOLも上がる

 さらに、アメリカでトップレベルの病院である、マサチューセッツ総合病院で行われた臨床研究がある(The New England Journal of Medicine 2010;363:733-742)。進行性非小細胞肺がんの患者を、抗がん剤治療だけを行うグループと、抗がん剤治療と並行して緩和ケアを行うグループに無作為に分けて治療した。すると、早期から緩和ケアを行ったグループでは抑うつや不安などが少なく、QOLが優れていた。そればかりか、生存期間は前者が8.9か月、後者が11.6か月で、緩和ケアを併用したほうが延命効果があった。この研究結果も、緩和ケアの有用性、優位性を物語るものといえよう。

 しかし、これだけの研究結果が示されても、モルヒネへの恐怖心や拒絶感は根深く、他の患者と比較して「モルヒネの量が増えたから死が近い」と思う人もいる。

 モルヒネの量は体重などに応じて決まるものではなく、個々の患者によって必要量が異なる。いわば100%オーダーメイドの治療なのだ。過去の知識に惑わされず、早くから十分な量を使って痛みを抑え、QOLを高めて長生きしたいものだ。
(文=編集部)

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