なぜ日本人は居眠りが大好きなのか?(shutterstock.com)
大寒波をやり過ごしても、まだまだ水も風も冷たい。冬来たりなば春遠からじ。日に日に、日の出が早まると、陽だまりに春がひたひたとにじり寄ってくるのが分かる。春眠暁を覚えず。「もうちょっと、寝床に居たいよ!」。唐代8世紀の叙情詩人、孟浩然(もうこうぜん)の切ない感嘆も聞こえてきそうだ。
日本人は居眠りを歴史的・社会的・慣習的に容認している?
ケンブリッジ大学東アジア研究所で文化人類学を研究しているブリギッテ・シテーガ准教授は、『世界が認めたニッポンの居眠り』(阪急コミュニケーションズ)の中で、「日本人の居眠りは勤勉さの象徴だ。オフィスでの居眠りは、一生懸命働いている証なので、公認されている」と分析している。また、ハーバード大学のテオドル・ベスター社会人類学教授は、犯罪率が低いからこそ、電車内でも居眠りが許されると指摘している。
シテーガ准教授によると、居眠りは「その場で寝る」と訳したほうが適切という。なぜなら、日本人の時間観に立てば、集中度は下がるものの、何かをしながら別の用事を済ますのも黙認されるからだ。居眠りするのは、ハイエンドホワイトカラーの人が多いが、特にポストの高い女性がウトウトするのは体裁が悪い印象を与えるので、叱責されやすい。
会社員なら、職場内で活力ややる気を内外に示すためにも目を覚まして仕事に勤しまなければならない。ましてや、ドライバー、生産ラインやマシン操作ラインなどで働く人に居眠りするゆとりはないし、安全面のリスクもある。
欧米にも昼寝の習慣はあるが、マナーに反するため、公の場で居眠りはほとんどない。欧米人から見れば、居眠りは奇異に映るだけでなく、仕事中に居眠りするだけで、非難を受け、顰蹙(ひんしゅく)を買い、最悪ならクビになる。
しかし、たとえば、電車の中で目を閉じれば、知らない人と距離感を保てるなど、居眠りは人間関係のバランスを整える効用もある。目を閉じていても、必ず寝ているわけではなく、自分だけの世界に籠っている場合も少なくない。目を開けていても、スマホがあるので、自分だけの世界に入れるのだ。
かつてはエコノミックアニマルと揶揄され、世界一短い睡眠時間で勤勉に働いてきた日本人は、居眠りを歴史的・文化的・社会的・慣習的に受け入れる素地が強い。
シテーガ准教授は、東日本大震災の時、被災した岩手県山田町の人々とともに暮らし、聞き取り調査も行ったらしい。日本人なら、この居眠り分析は、「なるほど!」と腑に落ちる面がある。なぜ日本人は、居眠りが大好きなのか?をもう少し科学的にひも解いてみよう。
睡眠時間は、男性6.44時間、女性6.32時間!
確かに、老若男女を問わずウトウトしている人をよく見かけるし、自らもそうだなと感じる。授業中、講義中、演奏中、電車内はいわずもがな、駅のホームや待合室、百貨店、カフェ、レストラン、劇場、映画館、遊歩道、公園、公共機関など、温かく快適な場所なら、所構わず居眠りに耽っている。場所を占領せず、他人の迷惑にならない限り、世間は居眠りを容認している風に見える。
しかし、公の場でウトウトするのは、何らかの睡眠不足や睡眠障害が主因にちがいない。
成人の平均睡眠時間はどれくらいだろう? 男性6.44時間、女性6.32時間と、わずかに男性が長い(厚生労働省「平成27年国民健康・栄養調査結果の概要」2016年11月14日)。
カリフォルニア大学サンディエゴ校のサラ・メドニック教授らは、夢を見る睡眠状態であるレム睡眠の時は、脳が活性化するため、居眠りすると脳の回転率や創造力が向上すると指摘している。
電車内で本を読みながら瞬間的に居眠りすることがある。電車の揺れの「1Hz」(1秒間に1回の振動)は、身体活動をコントロールする生体信号や、リラックスした時に発生するアルファ波と同じ波長のため、心身がリラックスするので、ついコックリ・ウトウトしてしまう。
マイクロスリープを効果的に利用すれば、短時間で疲れが取れる。1日3時間しか寝なかったと伝わるナポレオンは、マイクロスリープを活用していたかもしれない。