熟睡を妨げる「いびき」をあなどってはいけない
多忙な現代社会では、ゆっくりと休む時間がない分、「睡眠の質」に注目が集まっている。熟睡を妨げる原因の一つに「いびき」がある。その背後には恐ろしい病気が潜んでいることがあるため、医療界ではいびきは何らかの病気の症状として捉えられている。
いびきは、生活習慣の乱れから肌のトラブルや免疫力の低下など健康に大きな悪影響を及ぼし、将来的には糖尿病や高血圧、心不全、心筋梗塞などを引き起こす可能性が高いことが明らかになっている。
いびきの背後にある疾患で知られているのは、「睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)」だ。SASが原因と考えられる交通事故は社会問題になっており、厚生労働省、国土交通省なども警鐘を鳴らしている。
無呼吸状態が睡眠時1時間に5回以上、または7時間睡眠で30回以上確認され、いびきや日中の眠気などの特有の症状があればSASと確定診断される。心配なのは、脳卒中や高脂血症、うつ病などが潜んでいることもあり、いびきがこれらのシグナルとなって早期発見につながるケースもある。しかし、女性は羞恥心などから、進んでいびきの治療を受けていないため男性よりも深刻だ。
また、SASは大人の病気と思われがちだが、新生児や乳幼児、小学生の子どもがSASを抱えていることはあまり知られていない。いびきをかく子は全体の約20%(約50%という調査もある)、SASが疑われる子は1.5~3.5%との報告もある。
特に子どもの睡眠は、重要な生活の一部分を占める。心身の成長、発達のもっとも活発な小児期に発症するSASは、後々の人格や成長、健康状態に大きな影響を及ぼす。子どものSASは、大人に比べて昼間の眠気を訴えることが少ないため、発見が遅れて見過ごされてしまうことが多い。「いびきをかく子どもは学業成績も低下する」というデータもあり、早期診断と治療が重要だ。
子どもの睡眠呼吸障害、いびきを起こす代表的な疾患にはアデノイド、口蓋扁桃肥大がある。鼻から喉頭までの上気道が狭くなって起きる「閉塞性」と、脳から呼吸の指令が出なくなる「中枢性」とに大別され、小児は閉塞性がほとんど。特に小学校低学年までは、のどちんこの裏側にある咽頭扁桃の肥大(アデノイド)や、いわゆる扁桃腺の肥大が大半だ。
10歳頃からは、これにアレルギー性鼻炎による鼻づまりが加わるほか、気道が狭くなりやすい肥満も原因になる。どちらも小児で増加しているとされ、子どものSAS患者が増えるのではないかといわれている。
もはやいびきは病気の症状として考えるべき
最近の調査では、日中に眠気を感じない人の中にも、一定程度SASが疑われる人がおり、診断はなかなか困難だ。
検査は、医療機関で酸素飽和度や呼吸の気流をチェックする簡易検査キットを借り、自宅で1~3日分のデータをとる。あくまでも簡易型なので、SASが疑われたときは、医療機関に1泊2日滞在してポリソムノグラフィ検査を受けるように勧められる。
中等症から重症のSASには、「持続式陽圧呼吸療法(CPAP=シーパップ)」という治療が行われる。鼻マスクをつけてベッドサイドにCPAPの機器を備え、睡眠者の呼吸状態やいびきなどに合わせた治療圧力を自動的に調節して呼吸を整える。
鼻づまりが原因のいびきには、レーザーや高周波を使った手術も可能だ。日帰り手術もある。レーザーなどで鼻の粘膜を蒸散させ、鼻からの呼吸を楽にさせる。アレルギー性鼻炎の鼻づまりにも有効だという報告もある。
口の構造や喉によるいびきには、マウスピースも有効だ。市販や手作りタイプもあるが、歯科ではオーダーメイドを保険適用で作ることができる。より安らかな眠りを目指すなら、こちらを勧めたい。
世界初の使い捨て鼻腔挿入デバイスも登場
2014年には、いびきや無呼吸を防止する世界初の新デバイス「ナステントTMクラシック」が販売された。同商品は、世界初の使い捨て鼻腔挿入デバイスで、睡眠中の気道を確保し、いびきや無呼吸を解消する。
「ナステントTMクラシック」はシリコン樹脂の柔らかいチューブ状で、鼻腔に直接挿入し、狭くなる気道を確保する。自分で簡単に脱着でき、医療機器ながら電源確保が不要だ。毎回清潔なものを、どこでも気軽に使用できる。装着しても目立たない点や、お洒落なパッケージが、女性からも注目されている。全国の医療機関で取扱っている。
いびきは「睡眠の質」を下げるだけでなく、そこに潜む疾患を訴える身体からのサインかもしれない。良質な睡眠がとれていないと自覚している人は、一度、耳鼻咽喉科などで検査を受けてみてはいかがだろうか。
(文=編集部)