「良い性格」も「悪い性格」も、腸内細菌が決めている
神経科学と解剖学を専門とするユニヴァーシティ・カレッジ・コーク(アイルランド国立大学)のジョン・F・クライアン教授は、腸内細菌と脳内で起きる行動パターンには、明確な相関性があり、腸内細菌の移植によって性格が変わる事実を突き止めた(WIRED NEWS (UK) 2015年5月1日)。
クライアン教授が行った動物実験によれば、サイコ・バイオティクスと呼ぶ腸内細菌は、不安やストレスへの対応力を向上させるため、生体をリラックスさせる働きがある。
クライアン教授によると、サイコ・バイオティクスは生体の行動に影響を与える可能性がある。たとえば、腸内細菌をもたないように繁殖させたマウスは、通常の腸内細菌をもつマウスよりも、非社会的な行動が強く、他のマウスと過ごす時間も少なくなった。
このような行動への影響は、動物の糞を別の個体に移植して腸内細菌を移す糞便移植でも見られる。たとえば、不安傾向の強いマウスに大胆な性格のマウスの糞便微生物を移植すると、移植されたマウスはより社交的な行動をとるようになった。
さらにクライアン教授が行ったヒトの脳画像を用いた研究によれば、動物実験で確認されたサイコ・バイオティクスの効果は、ヒトの性格でも確認できるという。
腸内細菌は、身心の健康のために不可欠な存在であるだけでなく、「良い性格」も「悪い性格」も、腸内細菌が決めている可能性があるのだ。
日本人の腸だけに存在する海藻を消化する細菌がある!
腸内細菌が性格を決めているなら、そのメカニズムをもっと知りたいものだ。
そのヒントになるこんな研究を見つけた。日本人の腸だけに存在する海藻を消化する細菌があるというのだ(WIRED NEWS 2010年4月9日)。フランスのロスコフ海洋生物研究所の生物学者Mirjam Czjzek氏らは、日本人の腸にしかいない酵素を特定したと科学雑誌『Nature』に発表した。
発表によれば、Czjzek氏らは、一般的な海洋細菌ゾベリア・ガラクタニボランスを分析し、紅藻類の細胞壁にある炭水化物ポルフィランを分解する酵素を発見した。この酵素は内細菌のひとつバクテロイデス・プレビウスが紅藻類を食べるのを助けるという。
長い時間をかけて、この酵素をコードする遺伝子が、ゾベリア・ガラクタニボランスからバクテロイデス・プレビウスに入り込み、バクテロイデス・プレビウスは、紅藻類を処理しながら、海藻や海苔をたくさん食べる日本人の腸環境に広がったのだ。
Emory大学の免疫学者Andrew Gewirtz氏によると、このような民族的な違いを解明した研究は世界初と話している。ただし、この研究は北米人18人と日本人13人を対象にした限定的な分析のため、この腸内細菌が海藻を食べない人の消化にどのような影響があるかは未解明だ。
食に王道はない。どんな食べ物にも最初に口に運んだヒトの貪欲な食欲と失望の残酷史がある。情報化は地球を狭くした。グローバリゼーションは食文化のバリアを破壊した。アジア人も欧米人もアフリカ人も海藻や海苔を日常的に食している。腸内細菌は、日々刻々と進化を遂げているにちがいない。今、あなたの腸の中でも。
(文=編集部)