授業や部活の柔道で子どもが死亡するのは日本だけ
近年、スポーツによる頭頸部への衝撃が子どもに深刻な影響を与えることがさまざまな研究から明らかになり、クローズアップされている。しかし日本では、科学的な分析や認識が海外ほど進んではこなかった。
象徴的な例が、繰り返されてきた「柔道事故」である。わが国ではこれまで学校管理下だけでも、30年間で118名の中高生が頭部や頸部のケガで命を落としてきた。年平均4人以上の死亡という数字は他のスポーツに比べても突出して高い。
しかし「全国柔道事故被害者の会」が2010年、欧米の主要な柔道連盟に対して行った調査によると、フランス、イギリス、ドイツ、アメリカ、カナダ、オーストラリアにおける子どもの重篤・死亡事故はゼロ。ここまで事故が多発しているのは日本だけだ。
その一因として、日本では学校事故が責任問題に発展しやすいため、合理的な原因分析がされにくい土壌がある。全日本柔道連盟も長年にわたり、重大事故の問題に目を向けてこなかった。
また事故は、1年生に多いことから、十分に受け身ができないのに「稽古」として無茶な乱取りを行う、頭痛を訴えても練習を続けさせるなど、海外ではあまり見られない日本柔道の文化的な背景も関係しているとみられる。
柔道界あげて取り組めば事故ゼロは可能
しかし、その状況もここ数年で大きく改善されている。
多発する柔道事故の問題が直近でクローズアップされたのは2012年。中学・高校での武道の必修化を前に、事故被害者や父兄の間で危機感が強まり、事故に対する批判が高まったことがきっかけだ。
文部科学省は教員向けの柔道指導の手引を策定。授業では、体格や技能差のある子ども同士で組ませないことや、指導教員に対する安全教室などを実施。さらに、全柔連も頭部外傷の防止を始めとする安全対策に積極的に取り組んだ。
その結果、2012〜2014年度の約3年間は、それまで毎年続いていた授業や部活での死亡事故ゼロが続いたのである。あまりに報道されていないが、めざましい成果だ。
しかし残念ながら2015〜2016年にまた事故が増加。3名の中高生が死亡、4名が重症を負っている。これを重くみた全柔連は、11月上旬に、各都道府県連盟に事故防止の啓発活動を促す文書を送付。指導者を対象にした講習会で、「大外刈り」などの危険な技に対する注意喚起を行うよう呼び掛けた。
海外の強国で無事故が達成できている以上、日本でできない理由はない。これからも指導者のレベルアップとともに頭頸部の外傷に対する認識を深め、安全に関する情報発信や事故の再発防止策を進めていくべきだろう。
(文=編集部)