日本で液体ミルクが製造・販売されないワケ
まず、制度面だ。粉ミルクを含む乳製品は、食品衛生法の中の「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)」で規格が設けられている。だが、省令成立の1951年に存在しなかった液体ミルクは、法改正しないかぎり規格外の扱いなのだ。
また、乳児に向けた食品は、健康増進法により「特別用途食品」として国の許可が必要だ。液体ミルクは「乳飲料」に分類されるため、<母乳代替品>として売ることもできない。
食品衛生法を管理する厚生労働省、「特別用途食品」を許可する消費者庁、この省庁にまたがる法制度が液体ミルクの製造・販売を阻んでいる。
コストにも課題がある。仮に国内で製造した場合、商品の安全性はもとより、容器の開発、生産ラインの確保、輸送コストや人件費など、クリアすべき点は多い。海外で売られている製品も粉ミルクに比べて価格が高く、国内で同等の物を置いた場合、消費期限が半年~1年と販売期間も短いと予想される。
液体ミルクの研究を進めている粉ミルクメーカーもあって、技術的には製造可能だ。しかし、「平成27年度乳幼児栄養調査」によれば「調製粉乳(粉ミルク)」の国内生産量は減少傾向にある。少子化が進むなか、メーカーが二の足を踏むのも仕方ない。
だが、日本で液体ミルク渇望の声が盛り上がらないのは、その存在を知る機会が極端に少ないことかもしれない。
国内での授乳育児には、母乳か粉ミルクしか登場しない。市町村や産科病院、ショップなどで液体ミルクはない。これは、粉ミルクメーカーが授乳指導を主導しているという現実があるからかもしれない。
むろん、<育児の先輩>はその存在を知る由もなく、世代間での情報共有の場にその名が挙がることもない。
「必要」の声を上げ続ける
2014年に液体ミルクの存在を知った一人の女性が、国内での製造・販売を求める署名キャンペーンを始め、約2週間で1万人の賛同を得た。
「乳児用液体ミルクプロジェクト」と冠された署名は2015年12月、内閣府主催の規制改革会議に提出され、同時に法的整備を求める提案文も付された。
菅官房長官の発言につながったともいえるこの活動は、今年8月に「一般社団法人液体ミルクプロジェクト」へと進化。
このプロジェクトへの賛同者たちの思いは、「液体ミルクがあれば、育児の大変さが軽くなる」だ。
夜泣きする赤ちゃんを、あやすこともできずに粉ミルク作りに追われるとき、外出に必要なお湯や粉ミルク、保温ケースの重さに負けそうなとき、体調を崩して服薬し、母乳をあげられないとき――。
11月21日、参議院特別委員会で塩崎恭久・厚労大臣が、液体ミルクの普及に向けて規格基準の整備を急ぐ旨を発言した。
「必要だ」との声を上げ続けることで、道が開けることに期待したい。
(文=編集部)