映画『エヴォリューション』2015/フランス、スペイン、ベルギー/フランス語/81分 2016年11月26日(土)より、渋谷アップリンク、新宿シネマカリテ(モーニング&レイト)ほか全国順次公開 (© LES FILMS DU WORSO • NOODLES PRODUCTION • VOLCANO FILMS • EVO FILMS A.I.E. • SCOPE PICTURES • LEFT FIELD VENTURES / DEPOT LEGAL 201)
多くの人にとってあまり馴染みがなく、またどことなく神秘的な響きを持つ「キメラ」――。その語源は、ギリシャ神話に登場するライオンの頭、ヤギの胴体、ヘビの尾を持つ怪物「キマイラ」にあるという。生物学的には、「2つ以上の異なった遺伝子型あるいは異なった種の細胞から作られた生物個体」と定義されている。
2015年9月、米国立衛生研究所(NIH)は動物の胚に人間の細胞を注入し、キメラを作成する研究に対し、倫理的な問題を引き起こすとして資金提供の一時停止を決定する。しかし今年8月4日、その停止を一部解除するという方針を明らかにした。
こうした研究は、疾患の治療法の開発だけでなく、移植用の臓器不足解消にもつながると期待されている。一方、「人間の脳、意識を持つ動物が誕生する可能性がある」など、倫理的な問題を指摘する声も上がっている。
今回、話題になっているのは、胚の段階にある動物にヒト幹細胞を入れる異種動物間のキメラの研究だ。そのほか、レシピエント(注入される側)の発生段階の区分が「出生後の個体」の場合もあるという。
少年にインモラルな「医療行為」を施す映画が波紋を呼ぶ
今後どの程度研究が進むのか不明だが、「人間の脳を持つ動物」のような合成体に対して、今の時点では実感がわかない。しかし、11月26日公開の映画『エヴォリューション』には、その領域の未来を想起させるものがある。
(ここからはネタバレ注意)最初に断っておくが、これは「少年たちが奇妙な医療行為の対象となり、体が別の何かに変化していく」というダークファンタジーだ。少年と女性しかいない絶海の孤島。
10歳になるニコラも、毎日「母親」や他の「女性」たちから得体のしれない医療行為を受けている。彼はあることがきっかけで、「何かおかしい」と異変に気づき始めるのだった――。
この一連のニコラの体に起こることを「グロテスクな悪夢」と片付けてもよいが、看過できない部分もある。あくまでも筆者独自の解釈になるが、作品で示唆している「人間と他の生物との融合」への恐ろしさが、実際の研究の遠い未来への不安と重なるのだ。