>  >  > 英国で「3人の親」を持つ赤ちゃんの誕生を合法化

「3人の親」からDNAを受け継ぐ子供の誕生を認める、世界初の「卵子核移植」を英上院が合法化

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「卵子核移植」によって生まれる子供は父母とドナー女性の3人のDNAを受け継ぐ。 shutterstock.com 

 2月24日、3人のDNAを使った体外受精・胚移植(IVF-ET)技術である「卵子核移植」を認める法案が英国上院で可決・成立した。英国は「3人の親」を持つ赤ちゃんの誕生を合法化する世界初の国となった。

 この法案の目的は、母系遺伝性難病のミトコンドリア病の予防だ。ミトコンドリアは、ほぼすべての真核細胞にある細胞小器官。細胞の中で酸素呼吸(好気呼吸)してエネルギーを生産している。簡単に言えば、酸素によって炭水化物(ブドウ糖)を分解し、細胞を動かすエネルギーの放出・貯蔵・代謝・合成に関わるATP(アデノシン三リン酸)を生成する。ATPは、筋肉の収縮・伸展や物質代謝を支える生命活動の基礎エネルギー源であることから、「生体のエネルギー通貨」といわれる。

 母のミトコンドリアのDNAに異常があると、細胞を動かすエネルギーが十分に供給されないので、子供の脳や心臓などに障害が出る。ミトコンドリアのDNAの異常から起きるミトコンドリア病は、エネルギー需要の多い、脳、骨格筋、心筋などに発症しやすい。ミトコンドリア脳筋症、ミトコンドリアミオパチーとも呼ばれる。

 今回、ミトコンドリア病を予防するために承認された「卵子核移植」とはどのような技術だろうか?

異常のある女性の卵子から取り出した核を、別の健康な女性の卵子に移植して人工受精させる

 「卵子核移植」は、ミトコンドリアに異常がある母の卵子の細胞核を正常な卵子をもつドナー女性の細胞核と交換・移植して胚(受精卵)を作製する体外受精・胚移植(IVF-ET)技術。細胞核は父母のDNA、ミトコンドリアはドナー女性のDNAだ。つまり、「卵子核移植」によって生まれる子供は、父母とドナー女性の3人のDNAを受け継ぐ。卵子ではなく、受精卵の段階での移植も可能という。

 「卵子核移植」は、受精卵の操作、安全性、生命の選別、子供の出自を知る権利などの技術的・倫理的・人権的な問題点があることから慎重論も根強い。法案成立後は、監督当局が認可手続き規則を策定し、年末までに最初の治療が行われる予定。早ければ来年中に赤ちゃんが誕生するかもしれない。

 BBC放送の報道によれば、保健省スポークスマンは「多くの家族に希望を与える。ミトコンドリア病に悩む女性が、病気の遺伝を恐れずに健康な子供を産むチャンスが得られる」とコメント。

 「卵子核移植」に批判的な運動団体「遺伝学と社会センター」のマーシー・ダルノフスキー代表は「人間の生殖細胞系を永遠に変えてしまう技術であり、法制化は歴史的な過ちだ」と強く抗議。英国国教会も「親が望む性質の子を人為的につくる第一歩になり、生命倫理に反する」と反論する。

 ミトコンドリア病で娘を亡くした日本のある女性は「思い通りの子を求めることに疑問と不安がある。様々な病気があっても生きられる社会になってほしい」と話す(朝日新聞)。ただ、ミトコンドリア病は、母に異常があっても、子供は発症しないケースもあるという。

 「法律や指針で禁止しても、海外で恩恵を受けたいと思う人も増えるだろう。新技術のどこに線を引くかの議論が必要」(位田隆一特別客員教授/同志社大学 国際生命倫理法)。「動物では大きな問題はないが、人間への影響は不明だ。長期的な追跡調査が不可欠」(長嶋比呂志教授/明治大学 発生工学)。「次世代に影響が残る生殖細胞は改変しないという世界的なルールを緩和する動きだ。卵子の若返りやデザイナーベビーなどへ広がらないかが心配」(神里彩子特任准教授/東京大学 生命倫理政策)と国内でも議論が分かれる。

 日本には、体外受精・胚移植(IVF-ET)や顕微授精などの生殖補助医療(ART)を規制する法律がない。まずは法的なルールを整備することが急務だろう。難病で苦しむ母子を救うか。「3人の親」からDNAを受け継ぐ子供を作るか。「神の摂理」に踏み込む「卵子核移植」。その未来に投げかけられた問いは深い。

 妻とわが二重らせんのからみあふ微小世界の吾子を抱けり 岩井謙一
(文=佐藤博)

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