なぜ医師が名乗り出ない? 「医師登録制度」の数々の問題点
JALとANAの「医師登録制度」の問題点は何だろう?
第1点、責任の所在の不明確。JALもANAも「故意、重過失の場合を除き、会社が対応する」としている。だが、設備も環境も不十分な機内の医療行為の故意、重過失をどのような基準で判断するのか?
患者が死亡すれば、訴訟のリスクを負わされる。善意の行為でも、医師は業務上過失致傷罪・致死罪に問われるリスクがある。民事責任を免責されても、刑事責任は避けられない。
ちなみにアメリカには、「災難に遭った人、急病の人を救うために無償で良識的かつ誠実に善意の行動をとったのなら、失敗しても結果責任を問われない」という「善きサマリア人の法」が立法化されている。
第2点、登録時の専門とする科の選択肢が不十分。登録できるのは麻酔科医、産婦人科医、一般開業医、内科医/心臓専門医、神経科医/精神科医、その他だ。なぜか、その道の専門家である「救急医」の選択欄がないのは疑問だ。
科は必ずしも医師の専門スキルを表していないので、専門スキルを選べるように変えるべきだ。
第3点、機内の医療設備が未整備。設備が未整備のため、病態の原因が分からず、十分な診断ができない。
原因が分かっても、設備も薬剤もなければ、対応できることは限られ、最適な治療ができない。救急バッグは常備されているが、超音波装置などの診断装置も必要になる。
第4点、登録できるのは医師だけ。救急救命士、看護師は除外。
救急救命が必要な急病者なら、救急救命士、点滴の準備をする看護師が不可欠だ。救急救命士、看護師も登録できるように改善しなければならない。
第5点、報酬の明示が不明確。機内の治療行為は、医師法に定める勤務時間外の診療だ。医師への報酬を明示しないのはなぜか?
JALは「空港のsakuraラウンジが使える」、ANAは「お礼状など常識の範囲内での対応」としているが、医師にボランティアを求めるのは、誠意も礼儀も失する行為だ。
ちなみに、ルフトハンザ航空(ドイツ)なら、医師登録すれば5000マイルの付与と、次回使える50ユーロ分のチケットがプレゼントされるという。
JALもANAも「医師登録制度」の見直しを急ぐべきだ
このように、JALとANAの「医師登録制度」は、難題ばかりだ。
早急に医師をはじめ、救急医、救急救命士、看護師の意見をヒヤリングして、設備の整備、救急医、救命救急士、看護師の登録、責任の所在と報酬の明確化に取り組まねばならない。「善きサマリア人の法」の立法化も重要課題になるだろう。
「医師登録制度」のスタートラインはできていない。制度の趣旨と目標が明確になれば、使命感と善意がある医師らは、安心して登録するはずだ。乗客の信頼感も満足感も高まるだろう。JALもANAも制度の見直しを急いでほしい。
(文=編集部)