>  >  > 米で治療効果が証明されていない難病治療薬を承認!?
中村祐輔のシカゴ便り10

治療効果の証明されていない筋ジストロフィー治療薬をFDAが承認するその意味は?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
new_muscular001.jpg

世界初、筋ジストロフィー治療薬を承認(shutterstock.com)

 9月19日米国FDAはデュシャンヌ型筋ジストロフィーの治療薬EXONDYS 51を承認した。全く治療法がなかった遺伝性疾患に対する初の治療薬だ(現実的には治療薬候補に等しいが)。

 この病気は、X染色体にあるジストロフィンという遺伝子の異常によって起こる。ジストロフィンは筋肉細胞の表面に存在しているが、これがないと徐々に筋肉細胞が死んでいくため、筋力が低下していく。筋肉細胞は大きく伸び縮みするが、その際の細胞同士が擦れ合う際の潤滑油のような役割をしているのかもしれない。

 同じ遺伝子の異常によってベッカー型の筋ジストロフィーが起こる。発症時期や病気の進行速度の違いから区別されていた。両者の差は、デュシャンヌ型ではジストロフィンがなくなっているのに対して、ベッカー型では異常なジストロフィン蛋白が検出される。そして、後者の方が、病気の発症も進行も遅い。正常な蛋白でなくても、少しは機能しているのだろう。

 原因遺伝子がX染色体にあるので、基本的には男性にしか発症しない。遺伝子異常の頻度から考えると、X染色体が2本ある女性の場合には、もうひとつのX染色体には正常な遺伝子があり、正常なジストロフィンを作ることができるので、病気にはならない。また、遺伝子が大きいためか、突然変異率も高い。出生男児3000人に一人程度の発症率なので、日本では年間150-200人が発症していると考えられる。

 このEXONDYS 51という薬剤は、人工的な核酸(DNAを少し変化させているので、DNAやRNAとは少し違う)であり、ジストロフィン遺伝子がDNAを元にしてメッセンジャーRNAを作る際に、51番目のエクソンを飛ばして、メッセンジャーRNAを創り出すように設計されている。

 これによって、ジストロフィン蛋白(完全に正常ではないが)を増やす作用がある。一般的な薬剤の分子量は500未満だが、核酸の塩基で換算すると30塩基がつながっているため、分子量は10,000を越える大きな分子となっている。

 この薬剤は臨床的な治療効果が証明されていない。もとになったデータの一つでは、週1回の静脈注射で、40週後の筋肉内ジストロフィン蛋白量が、正常人に比べて治療前0.16%から、0.44%に増えたことが示されていた。増えたといっても、正常人の0.5%未満であるし、最も多かった患者さんでも、1.57%に過ぎない。治療前の0.16%というのは、われわれの細胞は、この程度のスプライシングエラーをしているのであろう。

中村祐輔(なかむら・ゆうすけ)

シカゴ大学医学部内科・外科教授兼個別化医療センター副センター長。1977年、大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院外科ならびに関連施設での外科勤務を経て、84〜89年、ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、医学部人類遺伝学教室助教授。89〜94年、(財)癌研究会癌研究所生化学部長。94年、東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。95〜2011年、同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005〜2010年、理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年、内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長を経て、2012年4月より現職。

中村祐輔の記事一覧

中村祐輔
がんになってもあきらめない妊活・卵巣凍結 費用は卵巣摘出に約60万円、保管は年間10万円
インタビュー「がんでも妊娠をあきらめない・卵巣凍結」後編・京野廣一医師

がん患者への抗がん剤による化学療法は妊孕性(妊娠のしやすさ)を低下させる。がんにより妊娠が難しくなる患者を支援するため、2016年4月に「医療法人社団レディースクリニック京野」が、治療前に卵巣を凍結して保存しておく「HOPE(日本卵巣組織凍結保存センター)」を設立すると発表した――。医療法人社団レディースクリニック京野理事長の京野廣一医師に卵巣凍結の仕組みについて訊いた。
前編『「がん」になっても妊娠・出産をあきらめたくない女性のための「卵巣凍結」とは?』

大阪市内のクリニック勤務。1987年 産業医科大…

吉田尚弘

小笠原クリニック札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認…

横山隆

シカゴ大学医学部内科・外科教授兼個別化医療センタ…

中村祐輔