ヒトの「大脳」はなぜ巨大化したのか? 脳が大きければ知性も高い?

この記事のキーワード : 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
new_brain0919.jpg

ヒトの脳はどうして大きくなった?(shutterstock.com)

「大脳が大きくなったために、ヒトの知能や知性が進化した!」これが今までの進化の定説だった。しかし、この定説を揺るがす研究発表が出てきた。

 人類学の定説によると、ホモ・サピエンスの大脳が大きく発達した要因は、原人類が樹上から地上に降り立ち、両手が自由に使えるようになったため、外反足による直立二足歩行が可能になった。その結果、捕食者から身の安全を守り、獲物を獲保して生命を保ちながら、地上生活により適応できたので、大脳の容積が次第に増大し、知能や知性が進化したとされる。

脳が大きくなったのは大脳への血流量の増加

 世界有数の科学誌『Open Science』(8月31日号)によれば、オーストラリア・アデレード大学のRoger Seymour氏(生態・環境学)らの研究グループは、ヒトの知能や知性の進化した主な要因は、大脳への血流量の増加に伴って動脈が太く変化した帰結であると発表した。

 発表によると、研究グループは、300万年前に生息していた猿人類の化石の頭蓋底を貫通する2つの動脈孔の大きさに注目し、分析した。

 頭蓋底は、頭蓋骨の中心部で大脳を下から支える顔面・頭部の最も深い部位だ。神経や血管が複雑に密集し、生命の根幹を維持する大脳の働きに深く関わっている。

 動脈孔の大きさを分析した結果、300万年に及ぶ進化の過程で、大脳の容積は約350%、大脳への血流量は600%も増加していたことから、ニューロン(神経細胞)の接続が活性化したために、複雑な思考・学習・推論ができるように知能や知性が進化した仕組みが解明された。

 Seymour氏は「高い知能や知性を発揮するためには、大脳は血液から酸素と栄養を補給されなければならない。つまり、大脳の代謝活性が高くなればなるほど、より大量の血液が要求されるため、血液を供給する動脈はますます太くなる。化石の頭蓋底に見られる2つの動脈孔は、動脈が太くなった形跡を示す確かな科学的証拠だ」と説明している。

 ヒトの新生児はすぐに立ち上がれない。母乳や養育環境がなければ成長できない。何年もの時間をかけて心身の形質・構造・機能は発達せざるを得ない。300万年前の猿人類は、捕食者からの防衛、家族の養育、食糧の確保に気を配りつつ、厳しい生存環境に適応しながら、数百万年もの長い時間を費やして、大脳と知能・知性を進化させ、霊長類の頂点ホモ・サピエンスに到達できたのだ。

 いずれにしても 人類の進化の過程で大脳の容積が大きくなっていることには違いがないが、それでは、脳は重ければ重いほど良いのか?という疑問も生まれる。

体重が重いほど大脳が重く、知性が高い?脳化指数のカラクリ!

 ここで少し脳の重さと賢さの関係についてどんな相関性があるかを見てみる。
この時に使われるのが脳化指数(EQ/encephalization quotient)だ。
 
 脳化指数は、たとえば、ヒトの大脳の重さを哺乳類の大脳の重さの平均値で割り、定数を掛けて求めた数値だ。つまり、ヒトの大脳は、哺乳類の平均値と比べてどれくらい重いかを表す指標だ。

 式にすれば、EQ=定数×大脳の重さ÷体重2/3乗 になる。

 脳化指数は、1973年に心理学者ハリー・ジェリソンが考案した「体重が大きいほど大脳も重くなるため、大脳が重いほど知的な動物になる」という仮説だ。 ただし、大脳の重さを単純に体重で割った値がヒトより高い値になる種がある。また、脳化指数が同じでも、同程度の知性がある根拠にならない。体重だけを根拠に、大脳の重さが大きいほど、知性が高いとは一概にはいえない。

 たとえば、犬の中で脳化指数が高いチワワやペキニーズは、セントバーナードやシベリアンハスキーよりも賢いといえるだろうか。シロガオオマキザルの脳化指数は、類人猿で最高のチンパンジーの2倍だが、シロガオオマキザルがチンパンジーより知的とはいえない。

 参考までにいくつかの脳化指数を紹介する。
ヒト(0.89)、イルカ(0.64)、チンパンジー(0.30)、サル(0.25)、ゾウ(0.22)
、クジラ0.21)、カラス(0.16)、犬(0.14)、猫(0.12)、スズメ(0.12)、馬(0.10)、モグラ(0.08)、ウサギ(0.07)、牛(0.06)、豚(0.05)

 どうだろう納得だろうか?、違和感があるだろうか?
知性には脳の多くの機能が関わっているので、脳化指数だけで知性を判断はできないだろう。脳化指数は、あくまでも相関関係を暗示するにすぎず、因果関係を示すのでは決してない。

 脳全体でなく大脳新皮質のサイズ、さらにその一部の前頭前野のサイズなども知能と相関が検討されている。さらにもっと相関のよい指標としては、新皮質のニューロンの数や、ニューロン繊維の伝導速度などもある。

 人類が未来に託す希望は、核戦争の抑止なのか、宇宙開発なのか、AI(人工知能)との共存なのか、ゲノム医療の革新なのか?いずれにせよ、人類に幸福をもたらすインテリジェントなキーテクノロジーが、生命最後のフロンティともいえる脳科学であるのは確かだ。脳科学の進化から目が離せない。
(文=編集部)

胃の不快感の多くは実は「機能性ディスペプシア」という病気
日本初の『胃弱外来』開設」後編:巣鴨駅前胃腸内科クリニック・神谷雄介院長

前編『大病院を転々した末にたどり着く「胃弱外来」 初診から約1カ月で8割の患者の症状が改善』

胃痛やもたれ、むかつきなどの症状があっても、検査の結果異常がないと診断され悩みを抱える患者さんが少なくない。こうした胃の悩みを抱える人たちのために開設したのが胃弱外来。患者さんの多くは新しく認知された『機能性ディスペプシア』や『胃食道逆流炎症』などの疾患だ。その具体的な治療法について話を伺った。

Doctors marche アンダカシー
Doctors marche

くにたち駅前眼科クリニック院長。1986年、東京…

高橋現一郎

近畿大学理工学部生命科学科ゲノム情報神経学准教授…

西郷和真

フィットネスアドバイザー。JT東京男子バレーボー…

村上勇