睡眠不足で仕事能力が低下、心血管疾患のリスクも……
今回の試験に関しては、睡眠の専門家という立場から、米ワシントン州立大学スポーケン校のChristopher Davis氏がこのように解説する。
「概日リズムと恒常的睡眠欲という2つのプロセスについては、以前から認識されていました。しかし、Czeisler氏らの新たな知見から、断眠中にそれぞれが異なる脳領域にどのような影響を及ぼすのかが示唆された」
もっとも、一般の生活上、連続で42時間も起きている機会はそうない。だが、現実的なレベルでの睡眠不足状態でも人の仕事能力は低下し、ちょっとした不注意からの事故リスクも増大したりする。
慢性的に睡眠不足気味の人は、心疾患や2型糖尿病などのリスクも高くなる。実際、概日リズムが喪失されると、夜間に血圧が下がらない(non-dipper)、逆に夜間に血圧があがる(riser)という高血圧傾向がみられたりする。こうした概日リズム障害を併せ持つ高血圧の場合、心血管疾患を起こしやすくなるのだ。
前出のDavis氏も「今回の知見は知見として、多くの人々にとって重要なことはやはり、睡眠時間を十分に取ることという有意性は変わりません」と語る。
眠れぬ現代人を照らす人工光
しかし、現代社会においては、長時間起きていたり、他人が寝ている夜間に労働力を提供することで賃金を得られる職種も少なくない。情報社会ではさまざまな誘惑も多く、睡眠時間を増やすことが口でいうほど容易ではないことは、Davis氏も認めている。
今回の研究を主導したCzeisler氏によれば、現代の工業化社会では人工光があふれているため、「覚醒時間が夜遅くまでずれ込み、不眠症増加の一因になっている」という。
夜間でも小腹がへればコンビニの灯が誘い、消灯後もスマホの画面が睡魔をさえぎる、誰もが微量な<時差ボケ>を自ら呼びこんでいるような世の中だ。
米国立睡眠財団(NSF)が推奨している睡眠時間は、14~17歳のティーンエイジャーで毎晩8~10時間、18~25歳のヤングアダルト層で7~9時間、26~65歳未満の成人の場合も7~9時間、65歳以上の層で7~8時間である。
しかし、Davis氏は「正しい睡眠量というのは個人個人で異なる」と指摘し、その判断材料として「昼間の眠気に注意を払うことが大事である」と助言する。さて、眠気が襲ってきたので筆をおこう。くれぐれもスマホの誘惑などには負けぬように……。
(文=編集部)