「ちょっと背骨が変形していますね」「ここの骨と骨の間が狭くなっています」
腰を痛めて医療機関を受診した際、医師からこのような言葉をかけられた人は少なくないだろう。以前にも「ほとんどの『腰痛』は画像で診断できない! 原因不明の『非特異性腰痛』とは?」で紹介したとおりだ。日本の医療機関の場合、「とりあえずレントゲン」は多い。
レントゲンによる検査は、重篤な疾患がないかを確認するのには重要だ。そのこと自体は、悪い事ではない。
しかし、レントゲン画像での所見が、そもそも腰の痛みは関係しない場合が多い。ところが、先ほどのような言葉をかけられると、患者は余計な不安を抱いてしまうものだ。
多くの人は、「背骨が変形している=痛みの原因」だと思っている。患者さんと話していても、腰痛があるのは、「背骨が変形してしまっているから」と思い込んでいる人はとても多い。
これは全くの誤解だ。確かに変形していることで、その結果、神経を圧迫していたり、骨と骨がぶつかりやすくなって痛みを生み出してしまっているケースは確かにある。だが、多くの場合は、変形が痛みを招くわけではない。
海外でもこのような誤った認識は多い。腰痛の専門家(主に医師以外)は、この問題について、盛んに訴えている。
医療関係者には有名な専門誌『Spine(スパイン)』で発表された論文のなかに、次のような驚く報告がある。腰痛の症状が出ていない健康な成人の腰部のMRIを撮ったところ、椎間板の変形が91%、亀裂が61%の人に認められたというのだ。
椎間板は、背骨と背骨の間にあるクッションのようなものだ。これが破れたり、膨張して神経を圧迫したりすると、下肢のしびれや痛みが生じる。これが「椎間板ヘルニア」と呼ばれるものだ。
頚部に対しても同じような研究が行われていて、やはり健康な人の首のMRIでも変形が認められた、という報告がある。