祝!リオ五輪開幕 マラソンや競泳などトップアスリートたちの「スポーツ心臓」は病気か?

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突然死を招くリスクが強い肥大型心筋症

 ところで、トップアスリートの短命やスポーツ選手の突然死が取り沙汰されることがよくある。なぜだろう?

 国際オリンピック委員会(IOC)によれば、オリンピリックで活躍したメダリストの平均寿命は、メダルを獲れなかった参加選手よりも7~8歳も短いという。年少時からの激しいトレーニングと栄養指導の質が選手たちの寿命を大きく左右するからだ。また、大妻女子大学の大澤清二教授の調査によれば、生涯を通じて激しいスポーツを続けるスポーツマンが一般人よりもおよそ6歳も寿命が短いというデータを発表している。

 なぜスポーツ選手は寿命が短いか? スポーツ心臓は短命や突然死の原因になるのだろうか?

 結論を急げば、スポーツ心臓は、先述したように激しい運動に順応するために心臓の筋肉が肥大化する徴候である。しかし、もともと心臓に何らかの疾患(肥大型心筋症、心臓弁膜症、先天性心疾患、高血圧、貧血、甲状腺機能亢進症、呼吸器疾患など)があれば、激しいスポーツが誘因になり、突然死につながる恐れが十分にある。

 なかでも高血圧によって心臓が大きくなる「肥大型心筋症」は恐ろしい。肥大型心筋症は、心筋細胞が肥大化し、心室の心筋が部分的に厚くなる心筋症だ。心室の心筋が厚くなれば、心臓内部の空間が狭くなるため、心臓は十分な血液量を送り出せなくなる。特に心室上部の流出路が厚くなると、血液の出口が狭まるので、さらに血液を送り出しにくくなる。このような状態の有無によって、肥大型心筋症は閉塞性と非閉塞性に分けられている。

 肥大型心筋症の真因は何か? 今世紀を迎えDNA解析技術が急速に進歩したため、肥大型心筋症と常染色体の遺伝子異常との関連が解明されてきた。最近のDNA解析の知見によれば、βミオシン重鎖(じゅうさ)、心筋トロポニンT、ミオシン結合タンパクCなどの心筋収縮に関わる遺伝子異常と肥大型心筋症に確定的な因果関係がある事実が判明している。

 ちなみに、スポーツ心臓の診断に使われるのが、心エコー検査や心臓超音波検査。超音波を心臓に発信し、返ってくるエコーを受信し、心臓の画像に映し出して心臓の筋肉の硬さや拡張能障害を調べ、スポーツ心臓か肥大型心筋症かを見分ける。ただし、心エコー検査の時に、肥大型心筋症だけでなく、虚血性心疾患、洞不全症候群、不整脈原性右室心筋症などの徴候が見つかる場合がある。

心臓には生まれつき決められた「生涯可能鼓動寿命」がある

 閑話休題。息を弾ませ、汗をかきつつ、スポーツ心臓を追走してきた。そのラスト・トラックは、心臓のトリビアを読みながらフィニッシュとしよう。

 さて、ヒトなどの哺乳類は、一般的に体重が重いほど1分間の鼓動数(心拍数)が少ないので、寿命は長い。体重が軽いほど1分間の鼓動数が多いので、寿命は短い。ゾウは40〜50歳、ネズミは 2〜3歳だ。

 心臓には生まれつき決められた「生涯可能鼓動寿命」がある。心臓が使い切れる消費エネルギーが限られているため、心臓が一生かけて「ドッキン」する鼓動数は、およそ20億回。20億回を1年間の鼓動数で割れば、寿命が分かる。たとえば、1分の鼓動数が60回の人なら、63.42歳が自然死する年齢になる。つまり、鼓動数が速ければ速いほど、心臓機能の劣化が進むので、寿命が短くなるのだ。

 スポーツ選手は、運動をしない人と比べると寿命が短いのか? スポーツ心臓は、短命や突然死の原因になるのか?

 だが、それを決めるのは「生涯可能鼓動寿命」だけではない。先天的な遺伝要因や後天的な環境要因など、複数の要因が関わっている。正解はないのだ。

 リオ五輪、熱気もムードも期待感も最高潮! トップアスリートたちの剛健なスポーツ心臓が数々のミラクル・ドラマを見せてくれるだろう!
(文=編集部)

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