痛い痛風は風が吹いても痛い(shutterstock.com)
アッ、痛い! 痛い所に限って何度も痛烈にぶつける。まさに痛む上に塩を塗る、泣きっ面に蜂だ。ところが、「痛い、痛い、痛い」と絶叫しても、痛い痛風は風が吹いても痛い。この痛恨の痛みは、幾千万、幾億もの人々を阿鼻叫喚の激痛地獄に陥れてきた。
紀元前8世紀の古代ローマ時代――。関節に毒素がたまる奇病に、人々は恐怖し、煩悶する。14世紀のルネサンス期のイタリア――。芸術家たちのパトロンである富裕なメディチ家の人々も、世界帝国を築き上げた神聖ローマ皇帝カール5世も、耐え切れない痛苦にのたうち回る。
得体の知れない奇病は数世紀をまたいで、御一新に沸く明治の巷にも風のように舞い立ち、およそ1世紀の間、神隠れしたり、奇襲したりして、日本人に取り憑く。だが、昭和の終戦が引き寄せた食の欧風化、過食偏食、肉食過剰の食習慣は、日本の津々浦々に贅沢病を瞬く間に蔓延(はびこ)らせた。
日本人の痛風患者はおよそ96万人
21世紀に至っても、人類を苦しめる手を緩めない痛風とは、いったい何か? 高脂肪・高カロリーの食生活、過剰飲酒、運動不足、ストレス、肥満などによって血液中の尿酸値が高まる高尿酸血症(尿酸値7.0mg/dl以上)を発症し、足趾(あしのゆび)、足首、足の甲、アキレス腱のつけ根、膝などに起きる急性関節炎、それが痛風だ。
足・膝・腰・肩・肘・手・胸骨など、全身の関節をくまなく徘徊しながら、あたかも風が強まったり弱まったりするように、冷酷な痛みに襲われたり、痛みが和らいだたりを執拗に繰り返す。とりわけ足の母趾(ぼし)の付け根の関節(母趾MP関節)の発症が約7割を占めるのが特徴だ。
尿酸は、細胞の核酸などに含まれ、細胞の再生に関わるプリン体の最終産物。主に肝臓で産出されるが、腎臓から最終的に排泄されるのは10%にすぎない。残りの90%は、尿酸が体液中に溶ける7mg/dLを超えると、尿細管から体液中に再吸収されて蓄積される。その結果、尿酸の結晶化が進み、結晶化した尿酸への炎症反応である高尿酸血症を発症する。
痛風の日本人の有病率は0.1~0.3%。『2010年国民生活基礎調査』によれば、痛風で通院中の患者はおよそ96万人。尿酸値が高い無症候性高尿酸血症(痛風予備群)は約500万人と推計される。痛風の90%以上が40代前後の男性だが、若い世代の発症も増えている。
どんな症状を伴うのか? 熱っぽい、チクチクする、体が重いなどの前兆があり、6~12時間後に激烈な痛み、はれ、発赤、熱感が表れたり、耳に痛風結節(しこり)ができたりする。夜間に骨折したような激痛が走り、歩行できなくなることもある。発作は24時間以内にピークを迎え、3~4日後にやや改善し、およそ1~2週間程度で自然に軽快することが少なくない。
だが、放置すれば再発を繰り返し、慢性の関節炎に進行すると、関節軟骨に欠損(びらん)を生じたり、関節の変形や機能障害が残るので、侮れば怖い。