連載第15回 薬は飲まないにこしたことはない

健康診断の基準値に踊らされるな! 自覚症状がなくても薬漬けに......

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自分の身体の"適正値"を理解しておこう

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 会社員には年1回の受診が義務付けられ、自営業者にも同頻度の受診が推奨される健康診断――。

 血圧や尿酸値、中性脂肪値、骨密度など、すべての項目に基準値が設定され、その範囲内に収まらないと、自覚症状がなくても多くの場合、「異常」や「病気」とみなされてしまう。また、そうした基準値や正常値を知ると、ほとんどの人が自分や家族の値が気になり出し、基準値に近づけようと懸命になる。

 だが、人間の身体は、基本的にそれぞれ違うものだ。それなのに、腹囲、血圧、血糖値、尿酸値、コレステロール値が基準値より多少高めというだけで、「異常」のレッテルを貼られることに首をかしげたくなる。それまで支障なく生活していたのに、健康診断で異常という結果が出れば、誰もが不安になるだろう。

 その後、心配になって病院に行くと、自覚症状がなくても患者として扱われるようになる。また、病院でいったん薬を処方されると、多くの場合、その後ずっと薬をずっと飲み続けなくてはならなくなる。私には、基準値というものが必要以上に多くの人を病人に仕立てあげている気がしてならない。

 また、治ると信じて飲み続けていても、さらに悪くなる場合もある。これでは何のために通院し、薬を飲んでいるのかわからなくなってしまう。

ころころ変わる基準値に惑わされない

 ところで、この基準値とはいったい何なのだろうか?

 私が薬剤師になりたてのころ、収縮期血圧(最高血圧)の基準値は「年齢+90mmHg」だった。つまり40歳なら130mmHg、50歳なら140mmHgということである。老化により血管の状態も変わり、血流を上げる必要性が出てくるため、年齢が上がるにつれ血圧が上がることは、それほど問題視されてこなかった。

 しかしその後、「高血圧治療ガイドライン2004」が発行され、65歳未満は129mmHg以下、65歳以上は139mmHg以下という基準値が採用される。「古い基準値だと高血圧が引き起こす病気や死亡の危険性を防ぐことが難しい」ことが理由だった。

 こうした理由で基準値を変更したにも関わらず、その後、高血圧による死亡者は減少したわけではない。変わったのは、基準値が下がったため血圧が基準値を超えて薬を飲まなくてはならなくなった人、つまり「病人」が増えたことだけだった。血圧の基準値はしばしば変更されるが、そのような医療界が作る適当な基準値に振り回されるのは、何ともおかしなことである。

 前述したように人間の身体は人によって異なり、自分の"適正な値"は自分の身体がいちばん知っているはずだ。胴囲ひとつをとっても、基準値よりも少し太め、または細めのほうが調子が良いと感じる人もいるだろう。メタボリックシンドロームに関しては、少し太り気味のほうが長生きするというという話も聞くほどだ。体重が少し基準値を超えても、特に不調はなく自分自身が快適に日常を送っているのなら、その人の値は正常だと考えてもよいのではないだろうか。

 「動悸がする」「身体が重い」などの自覚症状がある場合は、少し体重を落とす必要があるかもしれない。しかし、基準値をオーバーしても、「冷えがなくなったり疲れにくくなったりした」など本人が快適に感じるようであれば、それは自分にとって健康な証拠である。数値にとらわれる必要はない。

 自分の身体の調子の良し悪しは、自分にしかわからない。基準値で一喜一憂しないよう、自分の身体の"適正値"を理解しておくことが重要になる。


連載「薬は飲まないにこしたことはない」バックナンバー

宇多川久美子(うだがわ・くみこ)

薬剤師、栄養学博士(米AHCN大学)、ボディトレーナー、一般社団法人国際感食協会代表理事、ハッピー☆ウォーク主宰、NPO法人統合医学健康増進会常務理事。1959年、千葉県生まれ。明治薬科大学卒業。薬剤師として医療の現場に身を置く中で、薬漬けの医療に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」を目指す。現在は自らの経験と栄養学・運動生理学などの豊富な知識を活かし、薬に頼らない健康法を多方面に渡り発信している。その他、講演、セミナー、雑誌等での執筆も行っている。最新刊『薬を使わない薬剤師の「やめる」健康法』(光文社新書)が好評発売中。

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