危機にさらされている「果物の王者」(shutterstock.com)
現在上映中の映画『世界から猫が消えたなら』が、主演の佐藤健さんと愛くるしい癒し猫の競演で話題をよんでいる。
一方、こちらは「世界からバナナが消えたなら……」と世界中の嗜好家を動揺させている話題だ。その原因は震撼の「パナマ文書」ならぬ「パナマ病」である。
パナマ病、別名「萎凋病(いちょうびょう)」とは、カビの一種がバナナの木を枯らせてしまう病状だ。最長で40年間も土壌中に残る可能性も懸念されており、深刻な事態となっている。
1960年代にはバナナ史上「最も美味」と食されたグロス・ミシェル種が全滅に追いやられた。その耐性から台頭してきたのが、現在一般的なキャベンディッシュ種だ。
ところがこのキャベンディッシュ種、世界各地の生産地で「新型パナマ病」に見舞われ、バナナ市場を震撼させている。
先月には国際食糧農業機関(FAO)も「世界で最も破壊的なバナナの病気のひとつ」と指摘し、早急な対策を喚起した。
台湾や中国、フィリピンでも新種の開発は随時試みられているが、いずれも味覚のレベルや長距離輸送に不向きなど、難題をかかえているようだ。
現在危機に直面しているキャベンディッシュ種の年間生産量は5500トン。世界のバナナ輸出市場の95%(FAO調べ)を占めており、“代役”の緊急な登場が待たれている。
日本人にもダントツ人気の果物王者
日本人とバナナの関係は1903年(明治36年)、台湾から神戸港への貨客船で初めて商業用バナナが輸入された時まで遡れる。
それが一般大衆の口にも入るようになったのは大正時代の後期、その台湾産も戦後の自由化(1963年)を機に減少し、1970年代以降はフィリピン産の輸入量が日本市場の首位を占めてきた。
その定番のフィリピン産、最近値上りぎみだ。2012年の巨大台風下で生産地の2割弱が大打撃をうけるという直接的理由があるものの、さらに新型パナマ病の被害が早くも広がりつつあるのだ。
日本でのバナナ人気は不動だ。2014年の1世帯(=2人以上)あたりの年間購入量は18㎏で果物中の首位、13kgで2位のミカンを大きく引き離す(数値は総務省統計局「家計調査年報」から)。
価格も半世紀もの間ほぼ安定している。「物価の優等生」といえるバナナだが、「世界からバナナが消えたなら……」が現実化すると価格上昇は必至だ。
皮肉にも“バナナの効用”に再注目
ところが皮肉にも、ここへ来て“バナナの効用”が再注目されている。
4月20日放送のNHK『ガッテン』(特集「結果にコミットー!効果2倍の筋肉UP術)では、トレーニング直後の「タンパク質+糖質」の食事法を伝授。その筋力アップ用の推奨食品としてバナナを挙げていた。
バナナのクエン酸カリウムが血圧降下に効果的だということを発見したのは、セント・ジョージ・メディカルスクールの研究(2005年)。食物繊維の多さが心臓病・糖尿病・循環器疾患を減らすようだとしているのはハーバード大学公衆衛生大学院……。
バナナに含まれる栄養素、その健康効果の報告は枚挙にいとまがない。
値上げには「50度洗い」で応戦?
アジアから豪州の一部、アフリカや中東の生産地にも被害を広げている新型パナマ病。このまま被害が拡大すれば、栄養価に不釣合いな値ごろ感が薄まるのは必至だ。
となれば、庶民の自衛策は、稀少化するバナナを一本も腐らせずに、せめて美味しく完食することくらいだろうか。
近年注目されている「50度(℃)洗い」の効果をこの際、試してみるのも得策かもしれない。野菜、肉、魚……50度のお湯で洗い、本来の食感や鮮度や美味しさを引き立たせ、保存期間を伸ばす効果も絶大なこの方法。
果物類にも有効で、バナナの場合は皮ごと50度のお湯につければ(酸の性質が変わり)甘さが引き立ち、まろやかになるそうだ。
(文=編集部)