胎児の栄養源にもなるケトン体!?
2015年11月に出版された『ケトン体が人類を救う 糖質制限でなぜ健康になるのか』(宗田マタニティクリニック宗田哲男院長/光文社新書)によれば、宗田院長は、 ヒトの胎盤のケトン体を世界で初めて測定した。
2014年1月12日に開かれた第17回日本病態栄養学会年次学術集会で、宗田院長は「妊娠初期の胎盤と新生児のケトン体値は成人より高い」と発表した。発表によると、人工妊娠中絶(妊娠6〜18週)した女性58人の胎盤組織液に含まれるケトン体(βヒドロキシ酪酸)の値を測定したところ、平均1730μmol/Lだった。この値は、成人の基準値85μmol/Lと比べて、およそ20倍も高かった。
つまり、胎盤組織液のケトン体値が高いことから、胎児の血中のケトン体の基準値は成人よりかなり高く、脳をはじめとする胎児の体組織の主なエネルギー源がケトン体であると推定できる。
さらに、2015年1月10日に開かれた第18回日本病態栄養学会年次学術集会で、宗田院長は、糖尿病の傾向が全くない耐糖能正常の妊婦60人の分娩時の胎盤組織液と臍帯血(さいたいけつ/へその緒の中の血液)のケトン体(βヒドロキシ酪酸)の測定結果を発表した。発表によると、胎盤組織液は平均2235.0μmol/L、臍帯血は平均779.2μmol/Lだった。胎盤組織液のケトン体値が臍帯血よりもおよそ30倍も高かった。
つまり、胎盤でケトン体(βヒドロキシ酪酸)が作られ、胎児のエネルギー源として供給されていると推定できる。
この二つのデータから、宗田院長は、胎盤のケトン体(βヒドロキシ酪酸)値は妊娠初期から分娩時まで、一貫して成人の基準値の20~30倍も高いという結論に達すると述べている。
この研究は何を意味するのか? それは、ケトン体は胎盤で作られ、胎児に絶えず送られていることから、ケトン体の安全性が証明されているという紛れもない事実だ。
ちなみに、世界中で読まれている最も権威ある人間栄養学の教科書『ヒューマン・ニュートリション第10版』の日本語版(医歯薬出版)の「脳の代謝」の項目を見ると「母乳は脂肪含有量が高くケトン体生成に必要な基質を供給することができる。発達中の脳では血中からケトン体を取り込み利用できるという特殊な能力があり、新生児において、ケトン体は脳における重要なエネルギー源となっている」と記載している。
さらに2015年2月、米国の医学誌『Nature Medicine』は「絶食や低炭水化物食、激しい運動で炎症が抑制されるのは、ケトン体(βヒドロキシ酪酸)による効果の可能性が示唆された」という論文を掲載している。
ケトン体が炎症を抑制できれば、感染症をはじめ、糖尿病、動脈硬化、自己免疫疾患、脳梗塞や心筋梗塞などの虚血障害など、さまざまな疾患の改善が期待できるだろう。
スーパー糖質制限食を摂り入れると、糖尿病や肥満などの生活習慣病や、アレルギー疾患が改善されるという研究発表が数多くある。そのメカニズムを解明する有力なカギを握っているのは、ケトン体であるかもしれない。
人間にとってブドウ糖は、メインエンジンではなくサブエンジンで、ケトン体エンジンこそがメインエンジンだ。炭水化物を大量摂取してエネルギーに変える糖質エンジンは人間にとって後発エンジンで、サブエンジンの稼動しすぎがさまざまな病気をもたらすのかもしれない。
今後このケトン体の研究に注目必須だ!!!
(文=編集部)