シリーズ「これが病気の“正体”!」第3回

【閲覧注意】原因不明の「クローン病」に侵された腸! 国内に4万人以上の患者

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決定的な治療法はない

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「クローン病」に侵された小腸。縦に走る潰瘍が多発している

 画像の患者は34歳の男性。5年前からの痔瘻(肛門から肛門周囲の皮膚へと炎症が及び、皮膚に穴があく厄介な病気)持ちだった。半年前から発熱、水様性下痢、腹痛、体重減少(半年で8 kg減)が続いていた。

 便潜血反応は陽性。精査の結果、大腸に異常所見はなく、回腸末端部に多発性縦走潰瘍を認めたため、症状緩和のため、手術切除が施行された。手術時、所属リンパ節が軽度腫大していた。

 病理医による顕微鏡観察所見では、小さな肉芽腫(にくげしゅ)が、腸管壁と所属リンパ節に観察された。肉芽腫の存在は、アレルギー反応(とくに細胞性免疫)が病態に関与していることを示唆している。

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写真の模式図(簡単な解説つき)

 クローン病は、このような消化管病変以外、この男性のように痔瘻や、口腔内アフタ(痛みを伴う境界明瞭な発赤)の合併が特徴だ。胃や十二指腸に病変を認めることもある。痔瘻が初発症状となる場合があるので注意が必要だ。

 病変は寛解期と活動期をくり返しながら一生涯つづくため、日常生活を送りながらの闘病を余儀なくされる。しつこい下痢と体重減少が多くの患者の悩みとなる。下痢だけでなく、下血(便の中に血が混じる)ことも少なくない。ストレスで症状が悪化する点がとても厄介だ(症状そのものがストレスになる!)。

 腸管同士の癒着による腹痛も続く。たとえ病変を外科切除しても、他の腸管に病変(縦走潰瘍)が再発することが多く、腸管同士の癒着や狭窄が生じて腸閉塞症状をきたして緊急手術が必要になる場合もある。

 残念ながら、クローン病に対する決定的・根本的な治療法はない。クローン病は「免疫機能の異常」が原因なのは間違いないが、どんな異常が根本原因なのかにたどり着いていないからだ。

 外科的治療のほか、内科的な「免疫抑制治療」が行われる。潰瘍性大腸炎でも使われる「サラゾピリン(5-アミノサリチル酸製薬)」に加えて、ステロイドホルモン、アザチオプリン(商品名:イムラン)が使用される。正しい食生活(食餌療法)が欠かせない重要ポイントとなることはいうまでもない。

 最近開発された「分子標的治療(抗体療法)」は、そんなクローン病患者の福音となっている。抗TNF-α抗体である「インフリキシマブ(商品名:レミケード)」と「アダリムマブ(商品名:ヒューミラ)」だ。

 1回の注射で症状が劇的に改善する。2カ月に一度の注射で、寛解状態が維持される場合が少なくない。ヒューミラは皮下注射薬なので、患者の自己注射も可能だ。ただし、この薬も、根本的な治療薬ではない。抗TNF-α抗体は、その免疫抑制効果から結核の悪化を招くことがある。厳重な注意が必要だ。

 テレビドラマ『フラジャイル』(フジテレビ系)第3話では、この抗TNF-α抗体がクローン病疑いの患者に用いられ、実は見逃していた肺結核を増悪させた。現実にはあり得ないストーリー展開だが、ドラマ的には新鮮なテーマで、なかなか面白かった。
 

カレーは炎症性腸疾患を減らす?

 ところで、若い人に多い難病、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎とクローン病)では、食生活に気をつける必要がある。栄養士の指導では、脂肪の多い食品や油で揚げたもの、不溶性の食物繊維が多い食品、牛乳や乳製品、すしや刺身などの生もの、刺激物や冷たいものをなるべく控えるとよいとされる。

 だが、刺激性の代表である「カレー」はどうだろうか。カレーの黄色色素であるクルクミンは、生薬「ウコン」の主成分である。

 ウコン(ターメリックとも称される)はショウガ科(ショウガやミョウガの仲間)に属する亜熱帯原産の多年草であり、インド、東南アジアや沖縄で栽培されている。琉球王朝の秘薬(生薬)で、王府の専売品かつ財源となっていたという。

 二日酔い防止、胆汁分泌促進、抗酸化作用が知られている。ウコンはカレー粉の20~40%を占めている。たくあんの着色料としても用いられている。

 クルクミンは、TNF-αやインターロイキン(6や12)といった炎症性サイトカインの発現誘導因子(NFκB、AP-1)を強力に抑制する作用があり、実験的に作製したマウス腸炎(Crohn病のモデル)を症状や病理所見を改善し、その発症を抑制する。ヒトの潰瘍性大腸炎に対しても、寛解維持効果があるというデータがある。

 炎症性腸疾患の患者のカレー愛好率を調べる価値はあるかも知れない。真偽のほどはともかく、聞くところによると、インドでは炎症性腸疾患の頻度が低いらしい。


シリーズ「これが病気の“正体”!」バックナンバー

堤寛(つつみ・ゆたか)

つつみ病理相談所http://pathos223.com/所長。1976年、慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍。2001〜2016年、藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。2017年4月~18年3月、はるひ呼吸器病院・病理診断科病理部長。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書、電子書籍)『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス、電子書籍)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)、『患者さんに顔のみえる病理医からのメッセージ』(三恵社)『患者さんに顔のみえる病理医の独り言.メディカルエッセイ集①〜⑥』(三恵社、電子書籍)など。

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