中村祐輔のシカゴ便り4

五体満足な子供を望むのは障がい児差別? 遺伝子操作は冷静に議論すべき

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遺伝子操作で健康な赤ちゃんを望んではいけないのか?shutterstock.com

 遺伝子を壊して、遺伝子の働きを調べる「ノックアウト法」は、生命科学分野で多大なる貢献を果たしてきた。その功績が認められて、私のユタ大学時代の知人であるマリオ・カペッキィ氏は2007年にノーベル医学生理学賞を受賞した。

 これらの技術で、遺伝子組み換えが可能となったことにより、受精卵などに遺伝子操作できることも理論的に可能となった。

 しかし、予期せぬ遺伝子異常が起こる危険性(当時の技術では、ゲノム全体を調べることは簡単にはできなかった)や神の領域を侵犯することは許されないなどの神学的倫理学的論争によって、受精卵や胎児に遺伝子操作することは禁じられている。

 しかし、今や、全ゲノムを解析することは容易となり、しかも、十万円未満で解析可能なので、遺伝子操作によるゲノムへの影響を正確に捕捉できる時代となった。また、最近開発された手法が、目的の遺伝子だけを厳密に(以前よりは厳密だが、間違いを起こす可能性はゼロではない)置き換えることができるようになった。

 これを「ゲノム編集」と呼ぶ。

英国でヒト受精卵に研究目的でのゲノム編集が認可

 日本では、ゲノムという言葉に対する一般社会の認知度が低いため、「ゲノム編集」という言葉自体を知る人も少なく、「ゲノム編集」は「遺伝子操作」とは全く異質なことと考えている人が少なくない。

 しかし、「ゲノム編集」はどこからみても「遺伝子操作」なのだ。ただし、従来の方法に比べると、目的以外の遺伝子に異常を起こす可能性はかなり低いようだ。しかし、どの遺伝子を標的にするかによって、他の遺伝子に対する影響の有無はことなってくるはずだ。

 2月になって、英国の国家機関が、ヒトの受精卵に研究としてゲノム編集を行うことを認めた。ただし、細胞が2個・4個・・・・・・そして256個に分裂する段階までで、その段階で廃棄することになっている。

 “Nature”誌は、ドイツではこのような研究は禁じられており、これに反すると刑事罰が課せられる一方、日本、中国、アイルランドでは法的拘束力の無いガイドラインだけ対応していると指摘している。

 新技術のもとに、動物、植物を作り変える研究が進んでいる。これらの研究を進めている企業に、ビルゲイツ財団、グーグル、DuPontなどが大規模な投資をして支援している。

 確かに、不治で重篤な遺伝性疾患を遺伝子レベルで治療することができればと望んでいる患者さんや家族は多いだろう。しかし、やはり遺伝子操作のプロセスで生ずる未知のリスクは否定できない。

 もし、遺伝子異常のない子供を望むならば、受精卵から少し分裂した段階で1細胞を取り出し、遺伝子異常のないものを子宮内に戻すことも可能だ。優性遺伝性疾患なら、50%の確率で遺伝子異常はないし、劣性遺伝性疾患なら75%の確率で病気が起こらない。

 したがって、人工授精で受精卵を5-6個入手することができれば、たいていの場合、病気遺伝子を持たない受精卵は存在する。

中村祐輔(なかむら・ゆうすけ)

シカゴ大学医学部内科・外科教授兼個別化医療センター副センター長。1977年、大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院外科ならびに関連施設での外科勤務を経て、84〜89年、ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、医学部人類遺伝学教室助教授。89〜94年、(財)癌研究会癌研究所生化学部長。94年、東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。95〜2011年、同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005〜2010年、理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年、内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長を経て、2012年4月より現職。

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