日本の「食の安全・安心」はどうなる?shutterstock.com
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)が大筋合意しました。しかし、次期米統領の有力候補であるヒラリー・クリントン前国務長官が、TPP不支持を急遽、表明するなど、まだまだ波乱含みです。今回は、子どもだけでなく、私たち日本人すべてが健康被害を高めることになりかねない、TPPの問題を考えてみましょう。
ISD条項による提訴で「食の安全を守る砦」がズタズタに
私たち消費者気になるのは、TPP締結によって日本の「食の安全・安心」が脅かされる可能性があることではないでしょうか。なかでも懸念されるのが「遺伝子組み換え食品」です。遺伝子組み換え食品が食卓に上がるようになったのは2000年代に入ってから。人類史上、未経験の食品だけに、これからどんな影響が人体に出るのかは誰もわかりません。
動物実験レベルでは、不安を予期させる報告がすでに上がっています。たとえば、2012年、フランス・カーン大学のジル・エリック・セラリーニ博士率いる研究チームは、遺伝子組み換えトウモロコシをラットに700日間食べさせたところ、「メスでは、乳がんと脳下垂体異常が多かった。オスでは、肝臓機能障害と腎臓肥大、皮膚がん、消化器系への影響が見られた」と報告し、全世界に衝撃を与えました。
日本では、食用油など一部の食品を除いて、遺伝子組み換えの原材料を使った食品は「遺伝子組み換え原材料使用」の表示をすることが義務づけられています。しかし、TPP締結によって、この表示義務化が消滅してしまう可能性があります。
TPPにはISD条項というものがあり、外資企業が投資先政府の政策によって不利益を受けた場合、世界銀行の投資紛争国際解決センターに提訴できることになっています。つまり、遺伝子組み換え作物で全世界の食料支配を目論む巨大多国籍企業が、「遺伝子組み換え食品の表示義務化によって不利益を被っている」と日本政府を提訴することが可能なのです。実際、アメリカ、カナダ、メキシコによるNAFTA(北米自由貿易協定)では、ISD条項で46件の提訴が行なわれています。そのうち30件が米国多国籍企業によるもので、そのすべてで要求を通しています。
TPPのISD条項で懸念されるのは、表示義務化だけではありません。北海道は全道で遺伝子組み換え作物の栽培を条例で禁止していますが、これも不利益を受けたとして提訴される恐れがあります。また、遺伝子組み換え食品だけでなく、食品添加物の指定にあたっての安全性審査に時間がかかりすぎるという提訴や、近年、水源地の外資買収が大きな問題になっていますが、これを防ぐための法律を制定し場合も、ISD条項で訴えられる可能性があります。
このように、TPPのISD条項によって日本の「食の安全を守る砦」がズタズタにされる可能性があります。