除染作業員に国がなすべきこと
こうした状況について、講演で登壇した北海道がんセンター・名誉院長の西尾正道医師は、次のようにコメントした。
「作業員は“放射線業務従事者”。本来は、国が定めるモニタリングとレクチャーを受ける必要があります。ガラスバッジを持って積算値を測った上で、年1回、健康診断受け、放射線についてのレクチャーを受けることが義務づけられなければならない」
放射線を扱う管理区域に入る予定のある労働者や放射線診療従事者(医師や看護師)は、健康診断(被ばくの有無や白血球や赤血球の数の検査など)と6時間の講習(人体への影響、安全取り扱いなど)が決められている。
除染作業員を含む原発関係の労働者の場合、その年間線量限度は、一般人が1ミリシーベルトであるのに対し、職業被ばくは5年間で100ミリシーベルト(年間の限度は50ミリシーベルト)となっている。ところが、福島第一原発の事故後、政府は作業員の被ばく限度を250ミリシーベルトに引き上げた。
西尾医師は、「500ミリシーベルトで白血球が低下するとされていますので、さしあたって放射線の影響は出現しない線量です。しかし、染色体異常や晩発性疾患としてのがんや慢性疾患の出現は否定できない」
放射線診療に携わる医療従事者は、ガラスバッジをつけているため生涯の被ばく量がわかる。だが、除染作業員はガラスバッジをまともに支給されていないのが現実だ。
西尾医師は、次のように提案する。
「年間線量限度の引き上げは、事故収拾のためとはいえ、何とも“ご都合主義的な対応”ではないでしょうか。復興のために莫大な予算が割かれているわけですから、作業員の生涯被ばく累積線量をきちんと把握できる、そんな体制を作るべきです」
(文=編集部)