2030年にエイズが終焉する可能性?
エイズが初めて報告されてから30年余り。かつては不治の病とされ、30年間にわたって約4000万人もの命を奪ってきた。
昨年11月に発表された国連合同エイズ計画(UNAIDS)の2015年版報告書によると、2014年にエイズに関連して亡くなった人は推計120万人で、ピークだった04年に比べ42%減少。1995年頃のピークを境に最低レベルを更新したという。
世界のHIV感染者・エイズ患者の累積総数は14年末時点で推計3690万人だった。2000年の310万人に比べて約35%減少した。これらはエイズに関する啓発活動や抗ウイルス薬の普及が世界的に広まった効果とみられる。
UNAIDSは「過去15年間でエイズ対策は驚くべき前進を遂げた」と述べている。
デンマークの調査によると、HIV感染症の効果的な治療法が解明されていなかった1996年当時、25歳の感染者の平均余命は6、7年程度だった。
だが、抗HIV薬による治療法が開発されてからは、発症を遅らせることで、平均余命を40年にまで引き延ばすことができるようになった。
いまだ、HIVウイルスを体内から消滅させる治療法はない。しかし、HIVは、早期発見と適切な治療によって延命できるようにまでなった。現在、抗ウイルス薬によるエイズ治療を受けている人は約1580万人に達し、2005年の220万人に比べて7倍以上に増えたという。
国連は、2030年までにエイズの流行を終わらせる目標を設定。それを受けて世界保健機関(WHO)は、すべてのHIV感染者に抗ウイルス薬による治療を行うよう求める新たな勧告を発表した。
エイズを防ぐ啓蒙が進まない日本
ここで再び日本の事情に戻ろう。実はここ20年の間、日本は先進国の中で唯一、新規のエイズ患者数を毎年増やしてきた。主要先進国でエイズ患者報告数が激減したのとは対照的。ここ2年続けて減少したとはいえ、若干歯止めがかかった段階にすぎない。
自分がHIVに感染していたことを知らず、エイズを発症して初めて気づいたというケースが、毎年の新規報告数の約3割を占めている。
これはHIV検査の低迷によって、早期発見と治療が他の国よりも遅れていることを示唆するものだ。検査を受けていない潜在的な感染者や発症者を含めると、報告件数の数倍になるのではないかと、専門家は懸念している。
若者の性感染症に関する無知や無関心も要因であるようだ。これは10~20代への啓発が不足していることを示している。
性感染症の梅毒に感染した人の報告が、1999年以降最多となっていることとも無関係ではない。
梅毒になるとHIVに感染する確率が高くなり、重複感染が多いからだ。特に若い女性で梅毒患者の増加率が高く、20~24歳の2015年の患者数は2014年の2.7倍にもなるという。
ひとりのHIV感染者の余命が40年とすると、治療費は概算で1億円にもなるという。
それが毎年、1400人以上も増えているのが日本の現実だ。HIVなどの性感染症に関する、正しい知識に基づいた教育を徹底すべきだ。「若年者の性行為をあおる」などと反対している場合ではない。
(文=編集部)