素人学者鈴木が書くなぐった大量の「ぞっき本」
鈴木芳正は1940年生まれ、青山学院大・英米文科中退の素人「心理学者」である。1973年に『B型人間:血液型による性格診断』(産心社)を33歳で出版して以来、血液型と性格に関する本を200冊近く、手を変えタイトルを変えて出しているが、大手出版社から刊行された本はほとんどない。盗用癖があり、すでに処女作から能見正比古の本を無断引用したと著者に批判されている。
鈴木の本には「科学らしさ」の装いすらなく、本には肩書も経歴も書かれていないし、ネット検索でも見あたらない。正体不明であり、著書の信頼性にも疑問符をつけざるをえない。こうした「ぞっき本」(屋台でたたき売りされる本)の特徴は、参考書の明記がないこと、索引がない点にある。
能見本も鈴木本もそうだ。参考にした文献を示し索引を付けると、記載のウソや矛盾がすぐにわかので、やらないのだ。特に鈴木の本には、データを提示しての論理的な記述がまったくない。
「血液型が神経回路をつくる」という説
能見は著書『血液型人間学』(サンケイ新聞出版局、1973)において、「血液型物質は全身の細胞に分布している素材である。材料が違えば、その機能や特性が違うのは、まったく当たり前のことである。… 人体を生化学的に型(タイプ)に分ける物質は、血液型以外に発見されていない!」と書いている。
人を生化学的に分類する物質には免疫や臓器移植に関係するHLA抗原があるので間違いだ。それに血液型にはABO式以外にも、Rh式など重要なものが他にもある。さらに、科学的用語を使用して「素材としての血液型物質が生化学的に異なるのだから、神経細胞も血液型により異なり、その違いが性格の違いを生むのは当然である」と主張している。
この時点で、「血液型物質は糖鎖の違いであり、それはタンパク質である作用酵素が作り出す。その酵素は、遺伝子DNAに書き込まれた暗号がいろいろなアミノ酸に翻訳され、それらが結合することにより、合成される」ことが判明していた。
糖鎖の違いは合成過程における作用酵素の違いによる、というだけのことで、性格とか気質という脳の活動により生じる現象とは何の関係もない。また神経細胞にはそもそもABO式血液型物質がない。これが1980年代の医学的常識である。
能見は当然、これらの新知識を身につけて執筆しなければならなかったのだが、「電気回路の構成素材と神経回路の構成素材との比喩(アナロジー)」によって、「身体中にある血液型物質は神経回路にもあり、性格に影響を与えるはず」という思い込みを抱いて出発してしまった。