どれくらい歩いたら病気は防げるか?(shutterstock.com)
1日30分未満しか歩かない人は、糖尿病になるリスクが、2時間以上歩く人に比べて1.23倍高い――。そんな疫学調査の結果を、国立がんセンターの予防研究チームが公表した。
この研究は、1998~2000年に行なった大規模な糖尿病調査の参加者のうち、全国の男女2万6488人(40~69歳)を対象に血糖値やヘモグロビンA1cを検査したもので、1日の歩行時間と糖尿病の関係を体重や年齢に左右されないように分析している。その結論が冒頭の2割以上アップの比率だが、1時間未満組や2時間未満組と2時間以上組との発症リスクに大差は認められなかった。
また、今回の調査からはリスク軽減の理想的な歩数を割り出すまでには至っておらず、研究班は「活動量が少ない生活は糖尿病のリスクが高い」との凡庸な見解を述べている。
報道陣も一般成人の歩行ピッチを根拠に「2時間は1万2000歩に相当」とか、「健康維持の理想とされる1日1万歩を例に……」云々とお茶を濁している記事ばかりが目についた。
ところが、糖尿病を含む日本人に多い10の病(がん・心疾患・脳卒中・骨粗しょう症・骨折・脂質異常症・認知症・高血圧・うつ病)を予防可能とする歩数、それを明らかにした研究成果は既にある。東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チームが15年の長い歳月を費やして「普遍性のある健康法」を探り、「共通の物差し」を割り出したものだ。
15年間の長期研究の結論は?
これは同研究チームの青柳幸利福部長の故郷である群馬・吾妻郡中之条町に住む高齢者(65歳以上)約500人の協力を得て、運動量を記録できる『活動量計』を装着してもらい分析した根気の結晶だ。それも入浴時を除く24時間365日×15年間の追跡調査(=計測)という徹底ぶり。医学界で「奇跡の研究」と賛辞が寄せられているのも納得できる。
歩数や運動の強度が測定できる件の「活動量計」も15年前よりは進化しているが、家電量販店相場で3000円から高い商品でも1万円程度。小走りや早歩きなど中強度の運動をした合計時間も計れるのがミソで、通称「中之条研究」の秘密兵器としてフル稼働した。
はたして、高齢者の健康維持、病気・病態予防の基準となる指標(=数値)とは!?
安静時の代謝が1~2METs(メッツ)が低強度、速歩きが下限の3~5METsが中強度、6METs以上を高強度と定義。結果、「1日平均8000歩/中強度20分」という具体的にして理想的かつ非常にわかりやすい予防の物差し(=指標)が判明した。
当初、365日・四六時中の装着提案に異を唱える住民も多かったのは想像に難くない。が、慣れてくるにつれ、中之条町の協力者たちも日々の記録を気にかけて不足分を補おうと家の周りを回ったり、買い物時も遠目に駐車させるなどの自主性が高まっていったという。
病名ごとの理想的歩数(歩)と中強度活動時間(分)を挙げると、うつ病が「4000歩/5分」、心疾患・脳卒中・認知症が「5000歩/7.5分」、がん・骨粗しょう症・動脈硬化が「7000歩/15分」。最も指標が高い「8000歩/20分」の項目には糖尿病と並んで、血圧症・脂質異常症、そしてお馴染みのメタボリック・シンドロームなどがラインナップされている。
驚くべきは「8000歩/20分以上は予防にならない」「この数値を超えると統計的に頭打ち」「疲れすぎると免疫機能は逆に下がる」と青柳副部長が断言している点だ。総ての変数において健康効果が認められたがゆえの「8000歩/20分」なのだ。
もちろん、8000歩/20分は憶えやすいが決して楽な目標値ではない。この15年間の蓄積(=指標)を脳裡に刷り込んでも一向に動かない・歩かない、その姿勢こそが最大の敵だろう。
(文=編集部)