日本をはじめ、世界中で糖尿病になる人が激増しています。厚生労働省の調査によると、2012年、日本人で糖尿病にかかっている人は約950万人。糖尿病の有病数は5年に1回推計しており、前回(2007年)から約60万人増。糖尿病になると、いろいろな合併症が引き起こされ、それによって健康な生活が送れなくなる可能性があります。
血液中のブドウ糖はとても大切な働きをしています。食後、食べ物が小腸から血糖として吸収され、それが肝、脂肪、筋肉などの細胞に入ります。食事をしていない時には肝臓に蓄えられた糖が、再び血糖になって体内に戻り、ある一定のレベル以下には血糖が低下しないよう調節されています。
血糖が肝臓や脂肪、筋肉などの細胞の中に取り込まれると、血糖は下がります。そのために必要な物質は、膵臓から分泌される「インスリン」というホルモンです。血糖が上昇すると、膵臓からインスリンが分泌されて、肝、筋肉、脂肪細胞などの細胞膜上のインスリン受容体に結合し、糖を取り込むように指令を出します。すると細胞膜上の糖の運び屋(糖輸送担体)が働き始め、血糖が細胞内に取り込まれるのです。
血糖が病的に上昇するのは、インスリン受容体の働きが悪くなる場合が多く、肥満、食べ過ぎ、運動不足、アルコールなどの悪い生活習慣が受容体の働きを低下させてしまいます。インスリンの働きが悪くなる状態をインスリン抵抗性、またはインスリン感受性の低下といいます。
糖尿病の種類には以下の2つが挙げられます。
1型糖尿病:インスリンがほとんど膵臓から分泌されなくなる場合を言い、日本人には少ない糖尿病です(日本人の糖尿病の5%未満)。ウイルス感染などが引き金になり、免疫反応が関連すると言われています。
2型糖尿病:インスリンは分泌されていますが、必要量が足りないとか、分泌が遅れるなどの異常に加え、先に述べたインスリンの働く仕組みがうまくいかなくなって血糖が上昇します。日本人に多いタイプです。遺伝的な素質に生活習慣などが複雑にからみ合って発病します。両親・兄弟・祖父母・親の兄弟などに糖尿病の人がいると遺伝的に糖尿病になりやすい可能性があります。しかし、昔は素質があっても発病しない人が多かったため、親戚に糖尿病の人がいないからといって安心はできません。
糖尿病になると、長い期間をかけてさまざまな合併症が出てきます。糖尿病の3大合併症とは、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害をいいます。また、動脈硬化が促進され、心筋梗塞、狭心症などの冠動脈疾患、脳梗塞、足の閉塞性動脈硬化症になりやすくなります。そのほか、感染症になりやすい、傷の治りが遅い、歯肉炎・歯周囲炎を起こしやすいなど全身に合併症が現れる可能性があります。
糖尿病性網膜症は眼の奥の網膜に浸出物が出たり出血が起きて、ひどくなると失明してしまいます。糖尿病性腎症は尿蛋白が増え、腎不全から透析に至ります。糖尿病性神経障害は足のしびれの原因となる末梢神経障害や靴づれなどの傷から足を切断するに至る壊疽、胃腸・便通障害や排尿障害・インポテンツなどの自律神経障害があります。
糖尿病とは、血液の中のブドウ糖(血糖)がある一定のレベルを超えた状態が慢性的に続く状態をいいます。 空腹時血糖(食後8時間以上絶食)で126mg/dl以上もしくは、ブドウ糖負荷後2時間血糖や食後血糖が200mg/dl以上だった場合、糖尿病であると診断できます(2回確認する)。血糖が180mg/dl前後以上ならないと尿糖が出ないため、糖尿病の診断には尿糖を調べるのではなく、血糖を調べる必要があります。また、血糖が正常より高い人を境界型といい、将来的に糖尿病になりやすく、動脈硬化も促進されやすいと言われています。
糖尿病の治療の基本は、血糖をできるかぎり正常に近くすることです。これにより合併症の予防も可能です。しかし、合併症のなかでも動脈硬化性疾患は、血糖だけ良くても発病を食い止めることはできません。高血圧、肥満、喫煙、高脂血症(コレステロール・中性脂肪)または低HDL(善玉)コレステロール血症など、他の動脈硬化促進因子も管理・治療することが大切となります。
糖尿病の治療で参考になる書物の代表としては、日本糖尿病学会による『糖尿病治療の手引き』と『糖尿病治療の食品交換表』があります。生活習慣を改善することは、インスリンの働きをよくすることでもあり、血糖の正常化に効果的です。
●治療:継続して医療機関にかかりましょう
糖尿病は症状がほとんどないため、糖尿病の診断を受けても治療している人は3~4割だといわれています。しかし、糖尿病は一度かかると良くなることはあっても治ることはありません。一生、糖尿病とつきあいますので、通院もずっと続きます。通院間隔は血糖の善し悪しや合併症によって違いますが、血糖の良い人でも半年以上、採血しないと悪化することが多いので、忙しくても医師の指導のもと通院してください。また、いわゆる民間療法や特別な食べ物で今のところ効くものはありません。広告などに惑わされないように気をつけてください。
●食事療法:1日に食べる量を計算しましょう
身長から計算する標準体重をもとに「1日にどのくらいの量を食べるべきか」を決める必要があります。標準体重は以下の式で計算できます。糖尿病患者さんの1日の食事指示エネルギーは、個人の労働量により異なりますが、室内での軽作業が主である人は標準体重を25倍します。
標準体重=身長(メートル)×身長(メートル)×22 kg
1日指示エネルギー(軽労働)=標準体重×25 キロカロリー
このエネルギー量をどのように食べるかを示しているのが、先にも紹介した『糖尿病治療の食品交換表』です。日本糖尿病学会が患者さんにわかりやすいように作った本で、食品を栄養別に食品群に分け、それぞれどのくらい食べるのが良いか自分で計算できます。できれば食事療法をきちんと教わったほうがよいので、医療機関、保健所、勤務先の医務室などで一度、相談してください。アルコールはインスリンの働きを落としますので、糖尿病であると診断されたらいったんやめましょう。血糖がよい場合は少量(ビール換算で1日500cc程度)なら飲めることもあります。主治医と相談してください。
●運動療法:血糖を安定させるために体を動かしましょう
血糖を安定させるために運動療法も有効ですが、まず運動することが可能かどうか主治医と相談しましょう。運動は激しいものでなく、ウォーキングやジョギング、水泳、固定式自転車など、比較的楽な運動を長く続ける有酸素運動をおすすめします。これらの運動を1日20分以上続けると効果があります。できれば毎日、無理なら1日置きに行いましょう。運動の時間は、血糖を下げる薬やインスリンを使っていなければ、いつでもかまいません。通勤途中や買い物の際に歩く距離を増やすなど、生活に無理のない範囲で行うことが、続けていくうえではよいでしょう。さらに、有酸素運動と組み合わせてストレッチ、筋力補強なども行うと効果的です。できる範囲でかまわないので、少しずつ取り組んでください。
●肥満の解消:合併症にならないためにもやせましょう
肥満があると血糖が良くても合併症が進行します。前述の標準体重より多い場合は、標準体重を目標に減量しましょう。かなり肥っている人は、現在の体重の10%減量を目指してください。標準体重以下の人はウエスト85cm未満にするように。また、若い頃の体重(20歳頃)は、その人にとっての理想体重と思われます。少しでも近づくようにしましょう。
2型糖尿病の場合は、食事・運動療法で十分、血糖が低下しないときは内服薬やインスリンの注射を行います。 1型糖尿病の場合は、診断がついてすぐにインスリン療法を行います。内服薬にはインスリン分泌刺激剤、血糖吸収阻害剤、インスリン作用改善剤など、いろいろな種類があり、患者さんの状態に合わせて選択します。インスリンの注射は簡単なペン型注入器で行います。薬物療法で大切なのは、食事・運動療法を合わせて行うことです。それをしないと効果が一時的だったり、血糖は良くなっても肥ってしまって合併症が進行したりすることがあります。
定期的な検診が最も大切です。糖尿病はほとんど症状がないため、年に1回は必ず血糖採血を含む検診を受けるのが大切です。尿糖は血糖があまり高くないと陰性になりますので、安心できません。空腹時血糖が正常でも食後血糖が上昇していることがあるので、1度でも血糖の異常があったり、糖尿病の親戚がいたり、肥満の人などはブドウ糖負荷試験という詳しい検査を受けることをおすすめします(年1回)。
そして、日常生活では食事・運動などの生活習慣を改善し、肥満を解消しましょう。食事は1日3食バランス良く少しずつ食べます。夜のドカ食い、朝食を食べないなどは良くありません。また、アルコールの1日の適量はビールで500cc程度に。飲み過ぎには気をつけてください。
減量は、標準体重より多い人は標準体重を目標にしましょう。標準体重以下の人はウエストを85cm未満にするようにします。前述しましたが、若い頃の体重はその人にとって理想体重だと思われるので、少しでも近づくようにしましょう。
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