院内で患者が亡くなると、その死因や病態を特定するのも病理診断科の仕事である。
「患者さんの死因究明・病態解明のために病理解剖も行ないます。この際はご遺族の同意が必須です。病理解剖は<剖検(ぼうけん)>とも呼ばれています」
病気に対して幅広い知識をもつ病理医は、臨床検査部門全体に関わる事例も多い。
「院内感染防止対策、安全管理、倫理委員会、廃棄物委員会などを含めた医療機関内のさまざまな管理的な役割を担うことも少なくありません」
現代医療、とりわけがんの診療では、外科手術やホルモン療法、抗がん剤治療など、具体的な治療方針のほぼ総てが「“病理診断で決まる”といっても過言ではありません」と堤教授は語る。
「がんの最終診断は病理診断に委ねられます。たとえば乳がんの場合は通常、まず細い針を無麻酔で刺す<細胞診>が行なわれ、続いて局所麻酔下で太い針を刺す<針生検>が行なわれます。臨床的にがんが強く疑われるときは、細胞診を省略して、いきなり針生検が選ばれることが増えてきました」
「がんの場合、悪性度(=組織学的異型度)も判定します。病理診断の結果によって、手術法や治療法が変わるのです。同じ臓器のがんでも、悪性度や進行度によって治療や生命予後(=あと、どれくらい生きられるか)が大きく異なるからです」
主人公の天才病理医・岸京一郎。彼のもう一つの決め台詞である「うち(病理)は10割出しますよ」が意味する重要性が、堤教授の説明からも解る。
(文=編集部)
「宮崎智尋の今週の病理診断」
番組サイトでは、宮崎智尋役の武井咲さんがナビゲーターとなって実際の病理診断の組織画像を紹介。よりドラマを愉しむにはオススメのコンテンツだ。
堤寛(つつみ・ゆたか)
藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍し、2001年から現職。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏、日本病理医フィルハーモニー(JPP)団長。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書)、『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)など。