死因第1位の「がん」は早期発見・早期治療ばかりがいいとも限らない!?

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自転車に乗るとPSA数値が上昇?

 早期発見・早期治療、がんが早く見つかることはいい――。どうもそうとばかりでは言いきれない、そんな本音がアンケート調査で報告された。

 がん検診における「過剰検出」という言葉を知っているだろうか。医学や医療機器の進歩は、さまざまな病気をより早く発見して治療を行うことに寄与してきた。日本人の死因1位であるがんも、がん細胞がごく小さな段階から発見することが可能になった。

 だが一方で、症状に乏しいうえに死亡リスクにも乏しいがんが「スクリーニング(簡単に実施できる検査で自覚症状のない病気や異常を識別する)」で検出されるようになった。これを「過剰検出」という。

 "過剰"な検出は、偽陽性の検査結果によって患者を不安にさせたり、必要以上に体に負担をかける診断方法を行うことにつながることがある。

 これに関して、英・オックスフォード大学のAnn Van den Bruel氏らは、過剰検出に対する許容を死亡率の低下レベルに分けて調査。一般の人々の受け止め方は事前に与えられる情報(死亡率や利益)で大きく異なることを、医学誌『BMJ』(オンライン版2015年3月4日号)で報告した。

 調査は2014年8月に英国で実施。18歳以上のボランティア被験者をオンラインで公募し、同国の代表的な年齢、性別を選択して1000例が集められた。

 研究グループは、女性被験者には乳がんと腸がん、男性には前立腺がんと腸がんを設定したシナリオを用意し、各がんの疫学、治療、治療結果に関する情報を解説。次にベネフィット(利益)に関して、「がん特異的死亡率が10%減少する」「50%減少する」という2つのシナリオを示した。

 その結果、過剰検出への許容度はシナリオ設定によって大きなばらつきがあることが判明。過剰検出を許容できないとしたケースで最も少なかったのは「大腸がんスクリーニング・死亡率10%減少」(113例)、最も多かったのは「乳がんスクリーニング・死亡率50%減少」(313例)だった。

 また、50歳以上の人の過剰検出に対する許容度は有意に低く、教育レベルが高い人ほど許容度が高かったという。そもそも、回答者の中で「過剰検出」について耳にしたことがある人は29%だった。

 Bruel氏らは、「スクリーニング案内時に過剰検出の可能性やその影響に関する明確な情報を伝え、選択ができるようにしなければならない」と指摘している。

恥ずかしい格好での前立腺生検はもう嫌?

 がんの過剰検出に対して、藤田保健衛生大学の堤寛教授は、病理医の立場から疑問を呈している。代表例としてあげるのは、前立腺がんのマーカーとなる前立腺特異抗原(PSA)の血液検査は「早期発見=死亡率低下」とはいかないというものだ。

 わが国では住民検診として、前立腺の腫瘍マーカーであるPSA検査が行われている。日本泌尿器科学会や厚生労働省、多くのマスコミまでも、住民検診による前立腺がんの早期発見はとてもすばらしいことだと太鼓判を押しているようにみえる。

 PSAは早期がんの段階で血中値が上昇する例外的な腫瘍マーカーである。一方、前立腺がんは病理解剖でたまたま見つかる小さくて増殖の遅いがん(ラテントがん)が多いことは病理医の常識だ。つまり、PSA検査でこの命に関わらない小さながんが発見され、不必要な治療が行われる可能性がある。

 堤教授は、「最近、前立腺がんの針生検数が激増している。生検標本のごく一部にみつかる、顕微鏡的に"おとなしい"(悪性度の高くない)前立腺がんは、ラテントがんだと思われる。その証拠に、大阪府がん登録の統計では前立腺がんの罹患率が急増しているのに死亡率はそれほど変化していない」と指摘。1987年の前立腺がんの5年生存率(治癒率)は52%だったが、20年後の2007年の統計では、この数値が97%に跳ね上がっているという。

 「PSA検診が前立腺がんの死亡率を下げないことから、米国や欧州では10年以上前からPSAによる住民検診は無用が常識。PSA値の上昇は、自転車に乗った際のサドルによる刺激や、検査前日のセックスでも生じる。恥ずかしい格好での前立腺生検はもうコリゴリだという人は少なくない」

 そこで、待機療法=PSA監視療法という方法が提唱されている。定期的にPSA値の監視を続け、異常上昇や症状悪化の場合に限って治療するというものだ。臨床試験によって、その有効性が確認されつつある。

 しかし、命に関わらないがんをみつけて患者のこころの負担にする必要はないだろう。いったんがんと診断されたら、やはり治療を受けたくなるものだ。ところが、前立腺がんの治療(手術、放射線治療、ホルモン療法)はいずれも男性生殖機能の低下が避けられない。

 「PSA検査は簡単な血液検査だったため、もともと前立腺がんは70歳以上の男性の専売特許だった。現在では60代、たまに50代男性にも見つかるようになってきた。医療費削減の視点からも、PSAによる住民検診は無用と言わざるを得ない。それが世界の常識でもあるのだから」(堤教授)

 いずれにしても、がんの早期発見は治療に有益だが、その大義名分に翻弄されないことが大切だ。がん検診ではデメリットもあると知った上で、あらかじめ情報を得ておきたい。
(文=編集部)

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