こうした調査で、幸福度の判定方法がどれだけ科学的なのかが気になるところ。幸せを定義するにはあまりにも変数が多すぎる。現時点で確立された幸福度の評価法は存在しないのか?
2002年にノーベル経済学賞をとった行動経済学者ダニエル・カーネマンは、著書『ダニエル・カーネマン心理と経済を語る』に収められた論文の中で、U指数という概念を提唱している。U指数とは「不快(unpleasent)」「好ましくないもの(undesirable)」の頭文字をとったもので、いわば精神的な不快指数を示している。
カーネマンはアメリカ中西部で1000人の女性を対象にU指数を計測。女性たちが不快な状態で過ごしていた時間を指数を元に多い順に挙げていくと、「朝の通勤時間」「業務時間中」が最も多く、反対に不快を感じる時間が少なかったのが「セックスをしている時間」「社交に費やす時間」だった。
これらの点から、カーネマン「幸福とは、自分の愛する人、自分を愛している人とともに時間を過ごすことだと言っても、あながち言い過ぎではない」としている。
これもまだまだ科学的とはいえなさそうだ。幸福の定義に曖昧さが残る。
佐藤弥(医学研究科特定准教授)らの研究グループは、脳の構造を計測する磁気共鳴画像(MRI)と幸福度などを調べる質問紙で調査した。その結果、右半球の楔前部(頭頂葉の内側面にある領域)の灰白質体積と主観的幸福の間に関係があることが分かったという。
「より強く幸福を感じる人は、脳の特定部位が大きい」というのである。脳に適切な刺激を与える、たとえば瞑想をすることで、幸福を感じる度合いが高まることも分かったという。
幸福と健康(病気)の関係を語るうえで、医学以外の要因、たとえば、社会的な環境の要因を外すことはできない。年齢別、男女差、異文化(宗教観)、社会的な格差などの要因を加味することで、ひとりの人間が病気になったとき、幸福(不幸)の度合いがどう変化するのかが見えてくるはずだ。これを大規模で長期間にわたって実施するためのランダム化比較試験(RCT)をする必要がある。ビッグデータのような先進技術や、人工知能技術を活用することも期待される。
将来的には健康や医学の側面から幸福介入できるプロトコールができるかもしれない。
(文=編集部)