アルコール依存症の特異性は何か? それは日常の行動サイクルが飲酒中心に陥る点だ。
合間合間に頻繁に飲酒を繰り返したり、飲んでは眠り醒めては飲むので、大脳に飲酒行動の記憶が強く刻まれる。飲酒への渇望がさらに深まると、飲酒を取り繕うために嘘をつく、酒代の借金や隠れ飲み・酒瓶隠し・隠し金に明け暮れる、酒屋や自販機を探し回る、飲酒を妨害する人を責めたり脅したりするなど、飲酒への異常な執着や険悪な挙動を示す。
したがって、いったん飲酒が悪習化すれば、完治がきわめて難しい。長期間、断酒をしても、少量を飲むだけですぐに断酒直前の状態に舞い戻り、再発する。しかも、飲酒中心の考え方や行動は、家庭や社会との人間関係を破綻させる。失業、経済的な困窮、暴言や暴力、家族や友人の離反、社会的信用の喪失、絶望死……。アルコール依存症の罠と闇は深い。
大脳に飲酒行動の記憶が刻まれる仕組みを、もう少し科学的に説明しよう。大量のアルコールを繰り返し飲み続けると、アルコールはγ-アミノ酪酸(GABA) の作用によって、大脳の側坐核(そくざかく)から神経伝達物質のドーパミンを大量に放出させる。
側坐核は、体温、生殖、食欲、睡眠、感情を制御する前脳にある神経細胞で、報酬、快感、嗜癖、恐怖などをコントロールしている。側坐核から放出されたドーパミンは、何としても酒を飲もうとする執拗な飲酒欲求を強く刺激するので、飲酒量や飲酒頻度が必然的に高まる。その結果、飲酒行動を反復するために、依存性・中毒性・耐性がますます強まり、短期間でやめたくてもやめられないアルコール依存症にはまる……。
(文=編集部)
参考:『アルコホーリスク・アノニマス』(AA日本出版局)、『アルコール依存症を知る!』森岡洋(ASK)