アルコール依存症は身の回りの人たちにも被害が(shutterstock.com)
このシリーズでは長期間・大量の飲酒習慣の恐ろしさを繰り返し強調してきた。
だが、酒飲みが酒に執着し、依存するのはなぜか? 単に衝動的な欲求に駆られれて酒の誘惑に負けたのだろうか? 他人の顔色をうかがわなければ不安になる過剰なストレスや強迫観念、対人関係に囚われすぎて折れてしまう心の脆弱さが原因ではないか? 「酒のある社会が悪い! 酒を勧める世間が良くない!」とすり替えていないか? 酒に手を出さざるを得ない言い訳を社会に向けていないか? 責任は自分ではなく、社会にあるという言い逃れはないか?……
アルコール依存症(Alcoholism)は、肉体的な病変だけでなく、このような自己本位・独りよがりな精神状況に追い込まれる恐ろしさとの闘いでもある。
アルコール依存症になると、アルコールがもつ強い嗜癖(しへき)、依存性・中毒性に囚われ、アルコール耐性が形成される。そして、飲酒を自分の意志でまったくコントロールできなくなることから、アルコール使用障害(Alcohol use disorder/AUD)とも呼ぶ。
かつては慢性アルコール中毒(アル中)といわれ、本人の意志薄弱、社会性や人間性の欠如が主因とされてきた。最近は、覚せい剤や睡眠薬などの薬物依存症と同じ精神疾患として、医学的な管理や監視が求められている。
世界保健機関(WHO)によれば、アルコール依存症の未治療率は78.1%と高い。日本の飲酒人口は、ざっと6000万人。このうち治療が必要なアルコール依存症の患者は約230万人、厚労省は約109万人(男性95万人、女性14万人)、公益財団法人 健康・体力づくり事業財団は約300万人と試算する。300万人なら酒を嗜む人の20人に1人がアルコール依存症の罠にはまっている計算だ。