このような生体肝移植の限界を克服するためにも、注目を浴びているのが、肝硬変の再生医療だ。今、どのような状況なのか?
山口大学医学部附属病院の寺井崇二准教授らは、骨髄にある骨髄間葉系幹細胞を取り出して培養後、患者の抹消静脈から投与する培養自己骨髄細胞を使った肝臓の再生療法を研究している。骨髄間葉系幹細胞は、骨、心筋、軟骨、腱、脂肪などの間葉系細胞のうち、骨髄から採る幹細胞だ。
この肝臓の再生療法では、まず非代償性肝硬変の患者から約30mlの骨髄液を採って約3週間培養しながら、増殖した骨髄間葉系幹細胞を患者の末梢静脈から点滴する。点滴後6ヶ月間、観察を続けて安全性を確認し、厚生労働大臣の承認を得られれば、患者登録がスタートする。骨髄間葉系幹細胞は、線維化して硬くなった肝組織の線維を溶かし、肝細胞の増殖を促すので、肝機能の修復や肝硬変の寛解(症状の好転)が期待されている。
新たな肝細胞移植の臨床研究も動き出した。2014年7月、大阪大学医薬基盤研究所とバイオテク企業のレジエンス社は、iPS細胞を使った肝硬変治療と再生医薬品開発の共同研究を開始。水口裕之教授(大阪大学大学院薬学研究科医薬基盤研究所)は、iPS細胞を高機能な肝細胞に分化させる誘導技術や、iPS細胞から作った肝前駆細胞を増幅させる技術の開発に成功。レジエンス社は、iPS細胞から作った肝前駆細胞の大量供給、細胞移植試験、創薬研究に取り組んでいる。
また、2014年8月、レジエンス社は、大阪市立大学の河田則文教授(大学院医学研究科 肝胆膵病態内科学講座)らと、線維化した肝硬変の再生をめざす共同研究もスタート。この研究は、線維化に深く関わっている肝星細胞を免疫不全動物に移植し、線維化した肝臓の正常化をめざしている。移植試験で治療メカニズムが明確になれば、臨床試験へとコマを進められるだろう。さらに、2015年4月、レジエンス社は、慶應義塾大学医学部の小林英司特任教授と肝臓再生の共同研究も始動している。
今年から来年にかけて、肝硬変の再生医療に目覚ましいブレークスルーが起きる気配がある。大いに期待しよう。
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。