米レノックス・ヒル病院(ニューヨーク)のAllyson Shrikhande氏は、うつ病や不安症の既往のある患者では麻薬性鎮痛薬による効果を得られにくく、薬剤乱用のリスクが高いという。
その理由に挙げているのが、神経ホルモンバランスに対する麻薬の影響だ。「腰痛治療を行う医師は、事前に精神疾患の既往歴を尋ねることが大切。精神科医や心理学者との連携も不可欠だ」とShrikhande氏は述べている。
米ズッカー・ヒルサイド病院(ニューヨーク州グレンオークス)のScott Krakower氏は、「この研究は併存疾患のスクリーニングと治療の重要性を再確認させるもの。不安症や気分症状が軽減すれば、長い目で見て痛みを緩和できるチャンスが十分にある」と述べている。
治療へのアプローチをさまざまな組み合わせで考える
「病気をさまざまな観点から検討するのは、最近のトレンド」というのは、理学療法士の三木貴弘氏。豪・Curtin大学で最新の理学療法を学んだ三木氏は、「現在、医学の世界では『生体医学的モデル(Biomedical Model)』から『生体心理社会学的モデル(Biopsychosocial Model)』に移行している」と言う。
「生体心理社会学的モデル」は、疾患や痛みを引き起こす原因は生体学だけではなく、心理的、社会的な因子が複雑に組み合わさって引き起こされる、と考える。そのため、患者の心理状態や社会的な立ち位置なども考慮する必要がある。当然、患者の心理状態によって投薬の効果にも影響をあたえることは十分に考えられる。
一方、うつ病は「心理」に影響をあたえる、代表的な疾患。「慢性腰痛とうつ病に相関関係があることは、ある意味当然かもしれない。『Low Back Pain&Depression(英語でうつ病の意)』で検索すると、多数の医学論文がヒットする。治療へのアプローチをさまざまな組み合わせで考えることが必要だという、有効な報告のひとつだと思う」(三木氏)
治療の決め手がなく、多くの人が悩む腰痛とうつ。今回の研究による視点が治療に生かされていくことに期待したい。
(文=編集部)