加齢とともに増加する尿失禁shutterstock.com
皮膚のしわ取り治療に長年使用されているボトックスが、尿失禁の治療にも有用であることが新たな研究で示された。尿失禁(過活動膀胱)は、膀胱が頻繁に、あるいは突然に収縮することにより残尿感や尿漏れがみられる疾患。米ニューオーリンズで開催された米国泌尿器科学会(AUA)年次集会で発表された2件の研究で、膀胱筋に直接ボトックスを注射する治療が安全かつ有効であることが明らかにされた。
ボトックスはボツリヌス菌から抽出されるたんぱく質の一種で、神経の結合部に作用し神経伝達物質「アセチルコリン」の伝わりを弱める働きがある。つまり筋肉が緊張している部分にボトックスを注入することで、筋肉の収縮を抑制する。
1970年代から眼科や神経内科において、顔面チックや斜視、斜頚など、筋肉の活動亢進から起こる多くの疾患に用いられており、日本でも眼瞼痙攣の治療薬として、1997年4月から厚生労働省の認可を受けている。
米国ではボトックスが過活動膀胱へ適応を承認
米ニューヨーク大学ランゴン医療センターのVictor Nitti氏は、ボトックスに関する新たな3件の研究のうち2件に関与。第一の研究では、4年間にわたりボトックスを注射した患者227人のデータを分析した結果、患者の10人に1人は1日の尿失禁回数が50%以上減少し、44~52%は尿失禁が全くなくなった。QOLスコアは試験期間を通して2倍および3倍となった。最もよくみられた副作用は尿路感染症だったが、治療継続によるリスク上昇はみられなかった。
同氏が率いた第二の研究では、早期試験に参加した250人強の患者に対し、3年の追跡研究でさらに1~6回のボトックス注射を追加した場合の効果の持続について検討した。その結果、長期間のボトックス治療により1日の失禁回数に一貫した低下が認められ、3分の1の患者には1回の注射で1年の安定した追加効果が得られた。
一方、米ミネソタ州ウッドベリーの泌尿器科医Olufenwa Milhouse氏らによる研究の結果は、あまり明るいものではなかった。特定の原因のない尿失禁患者で2010~2014年に初回のボトックス注射を受けた約300人を対象に、急性尿閉に対する治療の影響を調べた結果、5人に1人は最終的に急性尿閉のためカテーテル治療が必要となったことが判明した。しかし、患者の40%はもう一度ボトックス注射を受けることを選択したという。
米ボーモントヘルスシステム、エイキンス神経泌尿器研究センター(ロイヤルオーク)のMichael Chancellor氏は、「ボトックスはもはや、しわ取りだけのためのものではない。2件の大規模研究で、数年にわたり繰り返し注射しても有効性と安全性が十分に持続することが示された」と述べている。ボトックスは米国では2013年1月に過活動膀胱への適応が承認されている。
日本での過活動膀胱の患者数は、2003年の疫学調査によると40歳以上の成人で810万人にも上ると推定され、増加傾向になるといわれる。ボトックスによる新たな治療方法が注目される。
(文=編集部)