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標準的ながん検診などよりもはるかに早い段階でがんの発症を示唆するDNAの変化パターンが、初めて特定された。問題となるのは、血液中のテロメアの状態の変化だという。
テロメアとは染色体の末端にある塩基配列の繰り返し部分のことだ。ヒトの場合は、TTAGGGという配列が約1万塩基繰り返されており、細胞が分裂すると染色体の末端のテロメアが少しずつ失われていく。
このテロメアの長さが、細胞分裂の回数を測る尺度として機能し、細胞の寿命を調節していると考えられている。たとえばヒトではテロメアDNAが5000塩基くらいになると、細胞が寿命に達し、それ以上の分裂は起こらない。また、寿命に達しなくても、細胞がテロメアの長さで分裂時計の進行を感知することが老化につながっているとも言われている。
したがって、子供と老人のテロメアを比べると老人の方が短い。テロメアが限界近くまで短くなると細胞は老化し、天寿を全うする。こうした関係からテロメアは「細胞寿命時計」などと呼ばれる。
テロメア研究での大きな進歩は80年代末に起きたテロメアの長さを維持する特殊な酵素テロメラーゼの発見だ。テロメラーゼは染色体の複製の際、事前にテロメアが削られる長さの分だけ巧妙にテロメアを長くする役割を果たしていた。
しかし、ヒトでは、生殖細胞と一部の体細胞を除き、ほとんどの細胞で、この酵素は働いていなかった。実はテロメラーゼが働いたのは、がん細胞だった。テロメラーゼの働きによってがん細胞はテロメアの長さが維持され、継続的に分裂する能力を獲得していたのだ。このテロメラーゼに着目することでがん細胞の増殖を防げるとする考えからテロメラーゼを標的とした抗がん剤の開発が行われている。
がんの発症前にテロメアが短くなっている事実
今回の研究は、テロメアの長さ自体をがんの新しいバイオマーカーとして検証したもので、がんになる人はテロメアが通常よりも速いペースで老化し始めることが明らかにされた。将来的にがんになる人のテロメアの長さは、15歳上の人と同じ程度まで短縮することがあるという。
「このテロメアの変化パターンを解明すれば、がんを予測するバイオマーカーとなる可能性がある」と、研究の筆頭著者である米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部(シカゴ)予防医学教授のLifang Hou氏は述べ、「このパターンはさまざまながん種で強く関連することが認められたので、正しく検査すれば、最終的には幅広いがん種の診断にこの処置を利用できる可能性がある」と付け加えている。
「EBioMedicine」に掲載された今回の研究では、13年をかけて約800人のテロメアの評価を追跡した。最終的に135人がさまざまながんの診断を受けた。その結果、がんの診断よりもはるかに前の段階でテロメアに著明な短縮がみられる一方、診断のおよそ3~4年前には短縮が止まることを突き止めた。その正確な理由は不明だが、短縮が止まる時期は、患者の未診断のがん細胞が幅を利かせ始める時期に一致する可能性があると同氏らは示唆している。
Hou氏は、「テロメアの急激な短縮が安定化する屈曲点が認められた。また、がんが身体内で勢力を伸ばすためにテロメアの短縮を乗っ取ることがわかった」と説明する。今後は、患者の正常な細胞を傷つけずにがんを阻止する治療の開発を目指し、この乗っ取りプロセスがどのように展開するのかを突き止めたいという。
(文=編集部)