座っている時間が健康寿命に大きく影響? Curtis MacNewton
2014年、スウェーデン・カロリンスカ医学大学の研究チームが「座って過ごす時間(坐位時間)が短い人ほど、遺伝子のテロメアが長い」ことを発見したと報告した。テロメアとは、染色体の一番端にある特殊な構造体のことで、それが長いほど遺伝子が劣化しにくく、肉体の若さが保たれるといわれている。つまり、長寿と坐位時間を結び付ける、ひとつの研究結果だ。
ほかにも、坐位時間と寿命や病気との関係を調査した研究結果が、続々と報告されている。
このほど、カナダ・トロント大学のAviroop Biswas氏らは、坐位時間が長い人ほど、がんや心血管疾患(CVD)、2型糖尿病に罹る確率が高く、死亡リスクが高いという論文を発表した。なかでも、2型糖尿病リスクは約90%も上昇するという。
この研究では、2014年8月までに発表された坐位時間(身体の動きがほとんどなくエネルギー消費量が少ない状態にある時間)と健康の関連について調査された文献を各種データベースで検索。基準を満たした47件を対象に、坐位時間と全死亡、CVD、糖尿病、がんのリスクなどとの関連について検討した。
解析の結果、坐位時間が長い人は短い人と比べて、全ての死亡リスクは24%アップした。CVD死は17.9%、CVD発症は14.3%、がん死は17.3%、がん発症は13%上昇。特に2型糖尿病は91%も上昇することが示されたという。
さらに、坐位時間と運動との影響を検討した10件の研究を解析。長い坐位時間による全死亡リスクの上昇度は、あまり運動をしない人に比べ普段から運動をする人のほうが30%も低かったという。
Biswas氏は、「公衆衛生プログラムや政策では運動を促すことに重点を置き、坐位時間の短縮を促す取り組みは広がっていない」と指摘。坐位で過ごすことの有害な影響について、人々の意識を高める必要があると強調している。
共同研究者のDavid Alter氏は、「1日1時間運動すれば残り23時間はじっとしていて良いわけではない」とコメント。実践的なアドバイスとして、デスクワークが長い人は30分ごとに1~3分の休憩を挟み、立ち上がったり動き回ったりすること、テレビは立ったまま、もしくはエクササイズをしながら視聴することを勧めている。
確率が高いだけで因果関係は不明?
ほかにも同様の研究がある。スペイン・ナバーラ大学のFrancisco J. Basterra-Gortari氏らは、座位行動(テレビ視聴・パソコン使用・自動車運転)と全死亡リスクとの関連を検証するため、健康な若者を対象に研究を実施した。
その結果、1日3時間以上テレビを視聴していた若者は、1日1時間に満たなかった若者に比べて死亡リスクが倍増した。そして、パソコン使用と自動車運転には関連性が認められなかったと報告している(オンライン版『J Am Heart Assoc』(2014年6月25日に掲載)。
さらに、2012年にもオーストラリア・シドニー大学公衆衛生学のHidde P. van der Ploeg氏らが、同国の成人22万人超を対象に1日当たりの座位時間と全死亡リスクとの関連を調査したところ、座位時間が長くなるほど全死亡率の上昇が示された。
そして、この調査では、座位時間と全死亡率との関係は身体活動に左右されなかったという。つまり「運動をする・しない」に関係なく、座っている時間が長い人ほど死亡リスクが高くなるのだ。
普段から運動量が少ない人ほど、心血管疾患やがんなどの慢性疾患や死亡のリスクが高まることは、これまで国内外の研究で報告されてきた。坐位時間と死亡リスクの関係を研究した報告も増えてきた。ただし、統計的な裏付けはあるものの、「座っている時間が長い人ほど病気のリスクが高く、短命なのか?」という因果関係はまだ証明されてはいない。
(文=編集部)