外国人や特権階級にのみ解放されている北朝鮮の外貨ショップには必ず医薬品コーナーがある
北朝鮮が昨年10月から続けていた「外国人や在外朝鮮人の入国禁止措置」を、3月上旬に解除した。エボラ出血熱の蔓延を防ぐための措置としていたが、遠い東アフリカで流行する感染症におびえる背景をめぐり、北朝鮮ウオッチャーの間で諸説とりざたされている。ただ、医療体制が脆弱で、流行性の感染症の蔓延が国家崩壊の危機を招く可能性があるのは間違いないようだ。
「購買意欲が旺盛な中国人観光客、ざっと数千人を逃した。ワケがわからない」――。中朝国境で観光業を営む朝鮮族の男性は、昨年10月から今年3月上旬までに及んだ、北朝鮮当局が行った事実上の外国人入国禁止措置に呆れた様子で言い放った。2月18日~3月5日までの春節(中国の旧正月)も措置は続いたことからも、その厳重さがわかる。
国外にいる人は大使館員や工作員も対象となり、入国の際は21日間も隔離するというものだった。対象は中国人観光客にまで拡大し、新義州といった国境の町で受け入れていた日帰りツアーも中断し、みすみす目の前にあるドル箱を逃した形になった。
ある北朝鮮ウオッチャーは「感染が爆発すれば、噂が噂を呼んでパニック状態に陥る。金正恩第一書記は中国元という外貨獲得より、万が一の体制崩壊の抑止を選んだのでは」とにらむ。
「病院はあるにはあるが、薬がまったくない」
事実、北朝鮮は感染症に弱い。2005年3月に平壌市の「下堂ニワトリ工場」などで鳥インフルエンザが発生したと官製報道で発表。この際は、人にも感染したという情報がある。
また、2009年11~12月ごろには新型インフルエンザが蔓延し、官製報道は「新義州と平壌で新型インフルと診断された患者は9人」としたが、実際には多数の死者が出たとみられる。この際にも、約3カ月にわたって外国人の入国禁止措置が実施された。
普段は体制への称賛ばかりの官製報道が、マイナスイメージの感染症を報道をするのは「外国への医療援助をアピールしている」(北ウオッチャー)といい、よっぽどのことが起こっていたようだ。
そんな北朝鮮は、これまで一貫して「医療費は無料」とアピールし、病院の充実ぶりを書籍や映像でプロパガンダしてきた。
しかし、脱北して現在は日本で暮らす30代の女性は「病院はあるにはあるが、薬がまったくない。あっても到底、手に入る値段ではない」と証言する。「病気の療法としては『野菜を生で食べる』といった、古くからの言い伝えによる民間療法みたいなのをやっていた」といい、当然ながら回復できず死ぬ人も多かったそうだ。
また、外国人や特権階級にのみ解放されている外貨ショップには、必ず医薬品コーナーがあるという。「カネがある人は、まず『これぞ』という注射や点滴、薬を買ってから病院に持って行って治療を受ける。日本とは正反対のシステムですね」と前出の脱北者は苦笑する。
入国禁止から一転して観光客の受け入れを始めた北朝鮮だが、同国内で急病だけは注意したほうが良さそうだ。
(文=編集部)